白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



「大変良くしていただきまして……ありがとうございます」


 とりあえずそう言って、ゆっくり頭を下げる。その頭を上げる勇気がなかなか出ず、視界に入る畳の目を数えて現実逃避を始めそうになった。


「涼風紫陽」


 しかし低く透き通るような声に名前を呼ばれ、びくりと震えて顔を上げた。

 狗神は予想していたより近くから紫陽の顔を探るようにのぞきこんでいた。

 小さく震える紫陽に、狗神は問いかけた。


「お前は、妖のことが恐ろしいか? ……俺のことが、恐ろしいか?」


 ……恐ろしいに決まっている。

 何と答えるのが正解かと思考を巡らせる間もなく、反射的にうなずいてしまった。

 だが狗神はその答えに何の感慨もなさそうに「そうか」とうなずき、重ねて問う。


「では、お前の世話係にあてがった杏のことはどうだ? 彼女のことも恐ろしいか?」

「いえ、杏のことは別に……」

「……ほう、やはりその辺りの感覚は鋭いか」


 言っている意味がよくわからない。

 聞き返そうと口を開きかけた紫陽は、しかしそれを途中で閉ざした。


 狗神の手が、おもむろに紫陽の頬に触れたからだった。意外に温かいその手から伝わる霊力は、数刻前紫陽の首を絞めつけた力を想起させる。みるみるうちに顔が強張っていくのがわかる。