白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



「特には」

「っ、何故ですか? 私は貴女たちの主を害そうとしたのですよ?」

「あはは、主は強いですから。そう簡単に死にやしませんよ」


 そういう問題ではない気がするのだが。紫陽は眉をひそめて食い下がる。


「狗神……様、だけじゃない。私はこれまで多くの妖たちを……あなたの仲間を、この手で祓ってきました」

「それは紫陽様はそういう価値観の元で過ごしてきたからでしょ?」

「え……?」

「この世のほとんどの人間が妖のことを危険な存在と見なしていることは知っています。それにあたしは別に、妖全員を仲間だとは思ってません」


 言っている意味がわからない。

 杏は穏やかな口調で続ける。


「妖だろうが人間だろうが、敵は敵、仲間は仲間。そりゃあ紫陽様が、例えばあたしの家族を殺めていたら憎いし恐ろしいと思うかもしれませんけど、そうじゃないでしょ? 」

「それは、そうですが」

「なら、あたしにとってはそれが全てです」

「でも」


 しかしそうは言っても、妖というものは誰しも程度の差はあれ、人間の暮らしを脅かす「悪」であるはずだ。つまり、妖であれば皆紫陽の前に立ちはだかっていた可能性はあり、そうなれば絶対にこの手で祓っていた。

 狗神が死ななかったのも、杏の親しい人が紫陽に祓われなかったのも、結果論に過ぎない。