白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 一気に何人も入れそうな湯屋かと思うような大きな浴槽に入れられた紫陽は、暑さと混乱で既にくらくらしていた。


(うちにも一応湯殿はあったけれど、お湯はたまにしか沸かしていなかったし)


 もちろん屋敷の湯殿は専ら掃除担当。湯船に入ったことはなかった。


「いかがですか奥方様~。痒いところはございませんか?」


 そして先ほどから、青い髪をまとめ上げた杏が、湯船に浸かる紫陽の体を糠袋で丁寧に洗ってくれている。手慣れた絶妙な力加減だ。


「ええ、とても気持ちいいです」


 涼風家で使用人からこんなかいがいしく世話をされた記憶はない。逆に妹にかいがいしく世話を焼いたことはあるけれど。

 だから嫌な顔一つせず、むしろにこにこと楽しそうにしている杏には困惑しかなかった。


「あの、杏様」


 色々と聞きたいことがある。そう思って恐る恐る振り返ると、彼女は驚いたようにぶんぶんと首を振る。


「ちょっと奥方様、杏、と呼び捨てでお呼びください! あたしはお世話係なんですから!」

「あ……では、杏」

「はあい、何でしょう奥方様」

「その『奥方様』というのは私のこと……ですよね?」

「もう、他に誰がいるんですか? 我が主の花嫁を奥方様と呼ばずしてどう呼ぶのです?」

「できれば普通に『紫陽』と名前で呼んでいただきたいのですが」