白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 ゆっくり足を踏み入れると、柔らかい香の匂いが鼻をくすぐった。この匂いは白檀(びゃくだん)だろうか。どこかほっとする香りだ。


(案内する部屋を間違えているのではないかしら。それとも、私なんかにこれほどの部屋を与えられるほど、余裕があるということ?)


 全体的に掃除が行き届いて清潔な印象で、狭く埃っぽい部屋で長年過ごしてきた身からすると何だか落ち着かない。だが、ここに来るまでの精神面と肉体面の疲労感は共に限界を迎えていた。

 部屋の隅で、壁にもたれかかるようにして座り込んだ。


(これからどうなるのかしら)


 薄く目を閉じながら考える。


(この地に住んでいるという人間たちと同じように、奴隷のような扱いを受けることになる? ……いや、多分同程度では済まない)


 そうやってまどろみと共に思考の海に落ちかけた頃。また廊下からパタパタと足音がして、勢いよくふすまが開いた。


「お待たせしました奥方様っ! お食事です!」


 ふわりと出汁の香りがする。紫陽の目の前に盆をドンっと勢いよく置いた杏は、相変わらずのはつらつとした笑顔で言う。


「好みがわからないので今日は簡単に握り飯とお吸い物だけなんです、ごめんなさい。後で好き嫌いを教えてくださいね! 明日以降お出しします! ほら、お腹すいてるでしょう食べてください食べてください」

「ああ、はい」