白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 建物の中は、外観と同様だだっ広いながらも派手さはなく、落ち着いた雰囲気が漂っていた。凛と張り詰めた空気は外よりも冷たくて、自然と背筋が伸びる。

 城にはかなりの数の妖が仕えているらしく、あちこちから霊力の気配を感じる。よく目を凝らすと物陰に隠れるようにしてこちらを窺う異形も見える。


(丸腰でいると、普段なら何ともない程度の弱い妖にすら十分な脅威)


 やはり刀は紫陽にとって自信の源だった。今は一般人と何ら変わりない。

 紫陽はなるべくそれらを意識しないようにして、杏の後を歩くことに集中した。


 ……どこまで続くともわからない廊下をいったいどれほど歩いただろうか。

 敷地に入ってから三つ目の渡り廊下の先の建物に入る。

 そこでようやく杏は立ち止まり、紫陽を振り返って言った。


「ここが今日から紫陽様に過ごしていただくお部屋です! あたしは厨房からご飯もらってくるので、紫陽様は中で休んでいてくださいっ!」


 そして彼女はまた、パタパタと足音を立てて来た廊下を戻っていく。

 残された紫陽は、沈みかけた日の光と行灯でぼんやりと照らされた部屋をぐるりと見渡した。


(お父様の居室よりずっと広い……)


 がらんとした座敷には付け書院や床の間。その奥には美しい色合いの絵が掛けられているが、美術的感覚を持ち合わせない紫陽にはその絵が良いのか悪いのかもよくわからない。