白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 淡々とした狗神と対象的に、女性はくるくると表情を変える。

 じっと観察されて、何となく居心地が悪い。


「杏、お前には紫陽の世話係を頼みたい」


 狗神はここにきてようやく紫陽を地面に下ろして、そんなことを言った。

 世話係……という名目の見張りということだろうか。紫陽は警戒心を強める。


「は? おい主、よりによって杏にそんなこと……」


 静かに成り行きを見ていた閏が何やら難色を示す。

 しかし当の本人は、そんな閏を押しのけて紫陽の目の前に立ち恭しく頭を下げた。


「もっちろん、主の命とあらば喜んで! ……ってなわけで、 奥方様のお世話係に任命されました、杏と申します! どうぞ気軽に名前でお呼びください!」

「あ、はい……」

「泥だらけですし、とりあえずお風呂入りましょっか」


 杏がそう言ったのとほぼ同時。紫陽の体から空腹を訴える間の抜けた音が鳴り響いた。

 そういえば、あまりお金を持っていなかったためほとんど食事を摂っていないのだった。


「あはは、お風呂の先にご飯ですねっ」


 そう笑われて、かなりいたたまれない気分だった。


□


 まずは部屋に案内しますね。そう言われて、紫陽は杏に案内されながら広い城の中を歩く。