白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。

□


(大きな城……)


 町の外からは白い靄がかかって見えたその建物は、紫陽の目の前に今その姿をはっきりと現していた。

 沈みかけた日の光を柔らかく浴び、薄暗く妖しい雰囲気。涼風家の屋敷だって、ものすごく立派な建物だと思っていた。だけど違う。ここは“立派”なんて簡単な言葉で片づけられるものじゃない。

 涼風の屋敷が軽く五つは入りそうな広い敷地だが、建物自体はどこか質素な印象すらあり、それがわかりやすく飾り立てるより、むしろ権力の大きさがうかがえる。


 ——狗神の手を取ったあの後。

 赤髪の妖・閏(うるう)に睨み付けられる中、狗神はいきなり紫陽を横抱きにした。驚いた紫陽が抗おうと手をばたつかせてもびくともせず、それどころか「これは預かっておく」と言ってひょいと刀を取り上げてしまった。

 自分を殺そうとした者から攻撃手段を取り上げるのは当然なのだが、まるで半身が奪われてしまったような不安感。だけど仕方がない。これから自分はこの人の花嫁(ひとじち)になるのだから。

 そんなことを考えていたところで、にわかに体が強い風に包まれた。

 そして今、目を開けたらもうそこが城の目の前だったのだ。移動程度に妖術を使うなど、有り余る霊力を持った妖だからできる芸当である。


「杏(あんず)を呼べ」


 共に帰還した閏に向かって、狗神は静かな声で命じた。