「なんでこんなわけ分かんないことにノってくれるの…」

「それは、正直俺だってまだ引きずってるからかなぁ」

「失恋…のこと?」

「そ。本当に好きだったから。俺だってあいつ以外の人にあいつへの感情以上のものを持てるかまだ分かんないよ。だからさ、いいじゃん。利用し合おうよ。臆病者達のせいで詭弁で防御しなきゃいけなかった俺達の心をさ、一緒に甘やかして、引かれるくらいでろっでろの恋愛してやろーぜ」

「共犯者、ね」

「うん。俺達は共犯者だ」

差し出された琉真の手のひらを、そっと握り返した。

私はずるかった。

紅華のことを忘れることはできないと宣言しながらも
いつかは離れてしまうかもしれない紅華からの逃げ道として琉真を利用している。

こんなことが許されるはずもないのに、
彼は彼の恋に傷つき過ぎていたのかもしれない。

誰かに縋っていないと、
彼の心はもうだめだったのかもしれない。

私達の恋はウイルスだ。

紅華から、琉真の好きだった人から、
細胞を伝っていくみたいに、接触者にどんどん感染していくウイルス。

私と琉真でウイルスを断ち切る特効薬なんて持っていない。
心が死んでしまう前に「終わらない恋愛」を成就できる自信なんてない。

それでも…。

「バカだって笑われてもいいからさ、俺のこと信じてみてよ。俺も糸を信じてみるよ。楽しいこといっぱい教えてあげる。どこにだって連れてってあげる。それが最後に恋愛には辿り着けてなかったとしてもさ、世界は広い、世界に存在してるのは自分と好きな人だけじゃないってこと、教え合おうよ」

「うん。琉真、ごめんね。おかしなことに巻き込んでしまって」

「俺の恋愛はもうとっくにおかしかったよ。だから大丈夫。糸も大丈夫。最低なんかじゃない。ただの人間の人生経験。もうそれでいいじゃん。これからは楽しいことだけ考えてこーぜ!」

「はい。宜しくお願いします」

「こちらこそ。宜しくね、糸」