「ありがとう。俺の為に怒ってくれて。高校に進学する時、本当は悩んだんだ。私服で通える学校もあるし、定時制とか通信でも選択肢はいくらでもあった。でもさ、もし俺が″普通″に戻れるチャンスがあるとしたらこれが最後かもしれないって思ったんだ」

「高校に通うことが?」

「幼馴染に説得されたんだ。一緒に進学しようって。お前がどんな感情を抱いていても紅華は紅華だから俺はなんでもいいんだけど、今のままのお前をお前自身が憎んでしまうのなら、俺と一緒に頑張ってみないかって。それで一緒に進学することを決めたんだけど、だめだった。単純にやっぱり女子の制服を着ることに抵抗があったし、集団生活は俺の異質さを際立たせるだけで、家にもとっくに居場所は無かった。救いがどこにも見当たらなくなっていって、張り詰めてた糸がある日突然プツッと切れるみたいに、三年生になってたのに、夏休み前に退学しちゃった」

「三年間も頑張ってたんだね…」

「両親はそりゃあもう大激怒。学費はじいちゃんが出してくれてたんだけどさ、お前の何もかもが本当に理解できないって母には散々罵倒されたし、父にはボッコボコに殴られたよ。お前が男だって言い張るんならこれくらい平気だろうって。お前にはもうなんの価値も無いって、俺には選択肢も与えられないまま家を追い出された。三年間支えてくれた幼馴染の言葉も最後には聴こえなくなってたくせに、この時はさすがに泣いて縋っちゃったなぁ。そしたらほら、お兄さんがバイトで雇ってくれてさ。借りてるマンションの保証人にもなってくれた。俺は…あいつのこと裏切ってばっかだけど、命の恩人なんだ」