僕の雨になって

「糸ちゃん」

「なぁに」

紅華がカップをそっとテーブルに置いて、
かしこまるように背筋を伸ばした。

私も膝の上に両手を置いて、
真っ直ぐに紅華を見つめ返した。

「俺のこと、どう見える?」

「こーちゃんに見える」

「どんな風に?」

「どんな風にって、こーちゃんはこーちゃんだよ。他の誰でもなんでもない、こーちゃんは出逢った時からずっと特別な人だよ」

「幻滅は?してない?」

「何に?」

「女だったことに」

「こーちゃんが女だったら幻滅しなきゃいけないの?こーちゃんの中身が何かと入れ替わっちゃうわけじゃないのに」

「うん。そうだよね。そうなんだけど…。糸ちゃんのこといっぱい悩ませてごめんね」

「私も、こーちゃんのタイミングを無視して暴走してごめんなさい。自分でもね、考えてみたの。こーちゃんのこと。でも、こーちゃんの口からちゃんと聞きたいです」

深く息を吐き出して、紅華は鞄の中から四つ折りにされた紙を取り出した。
テーブルの上で広げて、文字が読みやすいように正面を私のほうへ向けてくれた。

「こせき…とうほん…?」

「戸籍って聞いたことあるでしょ?自分の親は誰であるのか、結婚しているのなら配偶者の名前とか、両親との関係…もしかしたら養父母の可能性とかね。それから、自分の性別とか」

私にも分かり易いように紅華は一つずつ指しながら説明してくれた。
最後に指が止まった欄には「長女」と記入されている。
紅華の両親にとっての子どもは紅華、一人だけだということも分かった。