僕の雨になって

「ここに突っ立ってたら邪魔になるから入ろ」

紅華に促されて病室に入った。
紅華のベッドは窓際に用意されていて、
この病室は日当たりが良すぎるんだよって紅華は笑った。
カーテンはピッタリと閉め切られていた。

病室では入院患者のおばあちゃんと、その娘さんらしき女性が談笑していて、
紅華の隣のベッドとはカーテンで仕切られていて見えないけれど、人の気配は感じた。
もう一人入院しているはずの患者さんの姿は見当たらなかった。

「本当にごめんなさい」

「もういいよ。来ちゃったんだし」

「ごめんなさい」

「そんなに謝りたいんならさ、敢えて言うとしたらちゃんと覚悟して決めた日に、ちゃんと身なりも整えて、俺の口から話したかったなって。それだけだよ」

やっぱり怒っていることは隠せなくて、
最初のほうは紅華にしては大きめの声と早口だったけれど、
周りに配慮したのかそれともやっぱり私への優しさなのか…語尾にかけてその声は萎んでいった。

「自分のことしか考えてない軽率な行動だった。こーちゃんは最初から来てほしくないって言ってたのに。ちょっとでも元気づけられたらいいなとかそんな軽い気持ちしか無くて…。そもそも、そうだよね…。入院してるとこなんて見られたくないよね…」

「糸ちゃん」

「はい…」

「糸ちゃんに会えたことは嬉しいよ。ずっと会いたかった。俺だってずっと会いたかったんだよ。だから嬉しいんだよ。糸ちゃんにやっと会えた。本当は俺の為に会いに来てくれてありがとうって言いたいんだよ。…怒ってごめん」

ああ、なんで…。
この人はどこまでも優しい人で、自分が怒りたくても悲しくても、
人前では「誰かが求める紅華」をずっとやっていなくちゃいけなくて。

この人はきっともう、誰かの前で泣くことを、自分が許してあげられなくなってしまった人なんだって思った。

今もこうして私が泣いちゃうから、
この人は泣けなくなってしまったんだ。