「ごめん。あのさぁ、糸ちゃん」

「うん」

「近いうちに会えないかな」

「えっ」

「ごめん。いつも俺の都合ばっかりで」

「や…、そうじゃなくて。突然だったからびっくりしただけ。会うのはもちろん大丈夫だよ。むしろ嬉しいし」

「ありがとう。俺が悩んでる理由、糸ちゃんには会ってちゃんと顔見て話したい」

「そっか」

「声だけだとちょっと怖い。表情が分かんないから」

「そう…?分かったよ」

含みのある言い方だった。
なんとなく、ずっとはぐらかされていた、出逢った時の違和感も、
この話を聞くことで解消されるのだろうと思った。

彼女との喧嘩のことを聞いただけだと、
紅華の言い分はおかしいと思う。

「自分が悪い」と少なからず自覚があるのに、
「自分は変われないから彼女の気持ちを変えてほしい」なんて、
そんな思考では人付き合いは成り立たない。
横柄だと思う。

だけどきっと、そういう簡単な話ではないのだろう。

相手がそうしてくれないかなと、そう願ってまで貫き通したい何かがあるのなら、
せめて私だけは紅華の味方でいたい。

それは私が紅華のことを好きな欲目でしかないけれど、
世界中にとってどれだけ理不尽だろうが自分勝手だろうが、
世界にたった一人くらい、変わらない味方が居たっていいはずなんだから。