「寒くないですか?」

「寒いですよ」

「えっ」

思わず上げた声に男性はきょとんとした表情をした。

「俺も冬はちゃんと寒いですよ」

「え、だって…じゃあなんで」

私に指をさされて、男性はキョロキョロと自分を点検するみたいに
体中に視線を走らせた。

「…ああ。薄着過ぎるってことですか。忘れてきたんです。さっきまで人んちに居たから」

「…へぇ」

無意識で出してしまった低めの自分の声にちょっと気まずかったけれど
それと同時に男性のお腹が鳴って、
男性はもっと気まずそうな顔をした。

それを誤魔化すみたいに周りを見渡して、言った。

「あそこ入りません?」

「え」

「いいにおいがするし、あったかそうだし」

通学路の途中にあるお蕎麦屋さん。
入ったことは無いけれど、前を通るたびにおいしそうなお出汁の香りが漂っていて
今日みたいな日には特にそそられる。

「でも私、お金そんなに持ってないし。帰ったらごはんあると思うし」

「奢るよ。俺が誘ってるんだし。ごはん要らないって言ったら怒られちゃう?」

「大丈夫だと思いますけど」

「じゃ行こ」

スタスタとお店に向かって歩き出してしまった男性を
慌てて追いかけた。