僕の雨になって

「私ね、恋愛がしたくてこーちゃんを好きになったんじゃないんだよ」

「どういうこと?」

「こーちゃんと出逢って、お話するようになって、気づいたら好きになってた。恋愛をしたいから誰かを探すのはなんか違う。こーちゃんだからきっと好きになっちゃったんだよ。だったら自分のその気持ちをだいじにしてあげたい」

「それだけ好きになった理由は?」

「分かんないの」

「えー」

ちょっと笑って見せて、目を伏せたら時雨は左右の靴のつま先をコツン、コツンって閉じたり開いたりしていた。

「少女漫画とか映画にばっかり憧れてたらさ、おんなじ人間なんだから自分にもこういう世界が待ってるかもなんて期待しちゃうでしょ?でもそんな劇的なこと、普通は起こんないの。たぶん、意識的に演出でもしない限り。私とこーちゃんはちょっとだけ変わった出逢い方をしたけどさ、その後はなんにも無いの。なんにも無いどころか未読スルー常習犯でしょ?なのに許しちゃうの。メッセージがたった一通届いただけで好き!って思っちゃう。バカだよねぇ。こういうのを″ちょろい″って言うのかもね。私も時雨みたいに恋愛経験豊富だったらもっと冷静になれてたのかな」

「私はさ、あんたが羨ましいよ」

「なんで?」

「恋愛経験豊富ってさ、私みたいなのには言わないんだよ。だって″いろんな人と付き合った″ってだけで、思い出が多いわけじゃないでしょ。相手は大切にしてくれるのに、ちょー失礼なことしてるって分かってるんだよ。でもだめなの。なんでかなぁ…。どうしてもね、″この人を私の人生に縛り付けてちゃだめだ、解放してあげなくちゃ″っておかしな感情に支配されちゃうの。私が一番、自分に自信が無いのかもね。だからさ、誰がなんて言ったって、自分の好きな人が一番最高の男なんだって胸張って言えるあんたが羨ましいし、誰よりも人をだいじにできる子なんだと思うよ」