僕の雨になって

他にも聞きたいことは山ほどあった。

口振りからは一人暮らしみたいだけど
ご家族はどうしてるの、とか。
高校の中退理由とか…。

でも私にはまだそこまで踏み込む勇気も時間も足りなかった。

紅華がスマホをイジって、ふぅっと小さく息を吐いた。

「ごめん、糸ちゃん。そろそろ行かないと」

「そっか。今日はありがとうね。会えて嬉しかった」

「こちらこそだよ。誕生日に糸ちゃんに会えたことが一番のプレゼントかも」


紅華はずるい。
もしも私の気持ちを知っていて、もっとその気にさせるつもりでそんなことばっかり言うのなら
紅華は正真正銘の悪魔だ。

「彼女以外の子にそんなこと言っちゃだめなんだよ」

「そうだね。どっちにも失礼だよね」

紅華は″彼女″って言葉を否定しなかった。

もしかしたら本当はもう別れていて、
今日の約束だってただの友達で、
だから私とも気兼ねなく会ってくれたのかなって期待してカマをかけたつもりだったけれど
それは余計に傷つく材料にしかならなかった。

「じゃあね、こーちゃん。またメッセ送っちゃうかも」

「うん。俺もまた連絡するね」

「うん。待ってます。じゃあね」

頷いて、紅華は歩き出した。
振り向け、振り向け、って念じていたけれど、
公園を出るまでに紅華は一度も振り返らなかった。

一秒前まで一緒に居たのに
私はもう、紅華に会いたかった。