「えっと、ありがとうございます。っていうか」

「はい?」

「あの…あなたこそ大丈夫ですか?」

「はい?」

「濡れてますけど」

人の傘を心配しておいて、当の本人は傘を差していない。
黒いシャツの肩の辺りが雨に濡れて濃く変色している。

男性はゆるりと空を見上げて、
顔にかかる雨に瞼を細めながら
「これくらいの小雨なら逆に傘が邪魔だから」って呟いた。

「小雨、ですか」

「はい」

寒風に晒される脚が痺れる十二月、夕方五時。
制服のスカートがバタバタと風に揺れて
余計に凍えてしまいそうだった。

入学式直後に学校で一斉注文した学校指定の濃紺のコートは実際よりもワンサイズ上で、
痩せ型の私には、二年生になった今でも体よりもコートのほうがぶかぶかだった。
着ないよりはマシだけどあんまり防寒対策になっているとは思えない。

そんな私と比べたってどう考えても寒そうなのは
男性がアウターを着ていないからだった。

サラッとしたテーパードパンツ、
ハイソールデザインのミドルカットブーツも黒。
靴下だけがアイキャッチーなディープピンク。
耳に五つのピアスはシルバーで統一されている。

まとまりがあって洗練されているけれど
アウターを着ていないというだけで真冬のファッションとしては適していないように見える。