「糸」

「ん?」

「糸も大丈夫だからね」

「大丈夫?」

「大丈夫。糸は強くなったよ。琉真くんとか、糸の周りの人とかだけじゃない。あんたも優しい人だから、自分の(きず)に気づかないふりしちゃだめだからね」

「分かった。泣きそうな時はまた頼っていい?」

「そんなの約束するほどでもないでしょ!」

「そうだね。ねぇ、時雨」

「うん」

「私の夢が叶ったらさ、一緒に桜、見に行かない?」

「桜咲くってやつ?」

「そんな感じ」

「いいね。それはいい約束だ」

「でしょ」

手のひらを開く。

桃色を白で薄めたような花びらを見るたびに
私はあと何回、紅華のことを思い出してしまうのだろう。

私の夢が叶う頃、紅華はどこで呼吸を繰り返していますか。

どうかもう、続くその呼吸に苦しまないで。
きみが望んだきみになれる日を、
私は誰よりも願い続ける。