「卒業おめでとうございます。糸さん」

「時雨さんも、おめでとうございます」

三月三日。
ひな祭りの日に、私達は無事、高校を卒業した。

「糸、いろいろと大変だったね」

「んー。でもハッピーエンドだったから」

「わぁーお。糸ちゃんってばいつの間にポジティブシンキングになったの」

「いいでしょ」

「いいよ。すっごくいい」

「ありがと。時雨もすぐ専門の入学式でしょ?忙しくなるね」

「糸だって…っていうか糸のほうこそじゃん」

大学進学も就職もしなかった私だけど、
この春、ちゃんと夢と目標ができた。

とは言ってもはっきりとビジョンが決まったわけではないけれど、
精神科医、もしくはカウンセラーになることを目標に、浪人して大学を受験することに決めた。

人は、心だ。
その繋がりが無くなってしまったら孤独と闘うだけの人生になってしまう。

だけどそれだけでは救えないものがあると、紅華と出逢って知った。

どんなに大切に想っても、自分自身を削るように誓っても、感情論だけでは戦えない現実がある。

いつか紅華のように現実にもがき苦しみながら、
それでも生きることに期待することを消せない命を、救えるかもしれない希望が、この夢だと思った。

今からでは遅過ぎることもある。
夢は持てばいいってわけではないことも、理解できないほど私も もう子どもではいられなかった。

それでもしない後悔よりはずっとマシなはずだから。

何かに打ち込んで、頑張ってみたい。
そう思えた自分をほんの少し、好きになれたから。