陽が落ちて、骨まで沁みるような風が吹き始めた。
帰ろう、って立ち上がった紅華の横顔を見つめた。
やっぱり何年先もこの横顔ばかりを思い出してしまうような恋だった。
「そうだ。糸ちゃん、これ」
紅華が鞄から一冊の本を取り出した。
「小説?」
「誕生日に栞くれたでしょ。あの日に買ったんだ」
小説買おうかなぁって言った紅華の言葉を本当はあんまり信じていなかった。
栞をあげたくせに、小説を読むのはけっこう気合いが要ることだから、紅華はあまり好むタイプではないと思っていた。
だから紅華の意志でそうしてくれたことが嬉しかった。
その小説の著者は、名前を知らない人を探すほうが難しそうなほどの文豪だった。
真っ白の表紙に、金のひらがな三文字が縦に並んでいる。
とても美しいと思った。
帰ろう、って立ち上がった紅華の横顔を見つめた。
やっぱり何年先もこの横顔ばかりを思い出してしまうような恋だった。
「そうだ。糸ちゃん、これ」
紅華が鞄から一冊の本を取り出した。
「小説?」
「誕生日に栞くれたでしょ。あの日に買ったんだ」
小説買おうかなぁって言った紅華の言葉を本当はあんまり信じていなかった。
栞をあげたくせに、小説を読むのはけっこう気合いが要ることだから、紅華はあまり好むタイプではないと思っていた。
だから紅華の意志でそうしてくれたことが嬉しかった。
その小説の著者は、名前を知らない人を探すほうが難しそうなほどの文豪だった。
真っ白の表紙に、金のひらがな三文字が縦に並んでいる。
とても美しいと思った。
