紅華が退院するまでの間、私と琉真が代わりばんこでお見舞いに行った。

我が子が死にそうだったっていうのに紅華の両親を見ることは一度も無かったし、
そもそも(しら)せてもいないのだろう。

琉真のお兄さんが訪れることも無かった。

一度だけ、病室に紅華と私、琉真が揃ったことがある。

その頃には紅華もだいぶ回復していて、
日中は院内の庭を散歩できるようになっていた。

「琉真の前だからこそ聞くけど。お兄さんのこと、どうするの」

「バイトは辞めるよ。当然だけど」

「そうじゃなくて。その…訴えたりとか…」

琉真は紅華を真っ直ぐに見つめている。
紅華がどんな決断を下しても受け入れる覚悟が整ったのだろう。

「どうって。どうもしないよ」

「えっ」

私と琉真の声が重なって、顔を見合わせた。
さすがに琉真も動揺した表情だった。

「どうもしないって、だって兄貴は…」

「そうだよ。犯罪まがいのことしたんだよ?下手したらこーちゃんは本当に…」

「悲しかったよ。ブラックジョークだけど、死にたくなるくらい堕ちた。でもさ、琉真の家族を壊しても俺は笑ってられないよ」

「壊すとかそういうことじゃなくて。兄貴は相応のことをやったんだ。ちゃんと裁かれなきゃいけないと俺も思う」

「裁くのは法的にじゃなくてもいいだろ?甘いかもしれないけど、あの人が失ったものは大きいし、琉真の信頼を取り戻すことだって必死になったって不可能に近いかもしれない。裁きを受けて、いつか法が許したってあの人が生きていく日常がそれを許さないのなら甘いなんてこと全然ないんだよ。″法が許したんだから″なんて区切りをつけさせない、俺が一番酷なのかもね」

紅華はちょっとだけハニかんで言った。

酷なんかじゃない。
本当には酷くなれない紅華の葛藤と優しさが滲んでいた。

その優しさのほとんどが琉真の為に在るのだと思った。