「糸ちゃん」

「なぁに」

「俺ね、糸ちゃんに、刺してほしかったのかもしれない」

「殺してほしかったの?」

「きっとね。最期に何か、″絶対″があるのなら糸ちゃんに命を賭けて証明してほしかった。糸ちゃんに背負ってほしかった。最低、だね、ごめんね」

「いいんだよ。本当にもう一度、本当に死にたいのなら私が一緒に死んであげる。私がこーちゃんの命を握ってあげる。それくらいの覚悟、できるよ。だからこーちゃんは生きてて大丈夫なんだよ。不安定なこーちゃんの命、握ってる人が居るって思えたら怖くないでしょ?生きても死んでもこーちゃんの責任じゃないんだから。なんだってできそうでしょ?」

「糸ちゃんは…俺が不幸であり続ければずっとそばに居てくれるんだと思ってたなぁ。俺が普通になっちゃったら要らなくなっちゃうのかなって」

「自惚れないでよ。自分は世界で特別な人間だと思ってんの?こーちゃんはこーちゃんでしょ。ありのままの、その姿のこーちゃんがこーちゃんにとっての普通なんでしょ。私にとってもそうだよ。出逢った時から何も変わらない。こーちゃんだから好きになったんだよ。目の前のこーちゃんが私にとっての普通なんだよ。普通なんだよ、こーちゃんは。普通の、当たり前のことに嬉しくなって、泣いて、怒って、死にたくなっちゃう人間なの。だから早く…もう離れても…大丈夫になろっか。断ち切らなきゃ、いつまでも″普通じゃない″なんて言って私の前でかっこつけたくなっちゃうでしょ?」

「は…あはは…。糸ちゃん。糸ちゃんに、正しい時間を返さなきゃね」

窓が少しだけ開いていた。
舞い込んだ風が白いカーテンを揺らした。

眩し過ぎるくらいの晴天だった。