ベッドの脇まで近づいて、勧められてもいないけれど、そばにあったスチールチェアに座った。

紅華の額に指先で触れる。
撫でられた猫みたいに目を細めて、ふっと短く息を吐いた。

「何やってんの。ばかみたい」

「へへ…糸ちゃん…は、厳しいねぇ」

「ほんとに死にたかったのならもっとちゃんと切らなきゃね」

「ほんとに厳しいや」

「こーちゃん」

「ん」

「好きだよ」

「…、ん」

「好きだよ。それだけ。それだけだった。生きててほしかった。こーちゃんが死んじゃってたかもって思ってもなんの実感も湧かなかった。本当に死んでないからとかじゃなくて、こーちゃんが死んじゃって、こーちゃんが消えちゃった世界なんて認められないって思った。どこに居てもいいよ。私からは二度と見えない場所に行っちゃったとしても、生きててほしい。どうか生きててほしい。こーちゃんはこーちゃんの命で苦しんでしまうかもしれないけど、私はこーちゃんよりもこーちゃんのことを信じてるから。ここに居るから。いつでも帰って来れる場所に。だからどうか生きててほしい」

紅華に千切れてしまったブレスレットを握らせた。
もう直せないかもしれない。
二度と繋がることはないかもしれない。

愛は形じゃないなんて言うけれど、
紅華も私も今はまだ目に見えるものが確かな物ならば、それでいいと思った。

離れていてもこうやって認識できる愛があるのなら。
生きていけるのなら。

綺麗事なんて要らないからしがみついてほしい。