「ああ、成瀬さん居た居た」

談話室のスライド式のドアが開いて、看護師さんが入ってきた。

泣いていた余韻が残る私を見て、
看護師さんは労わるような表情をした。

「宇佐見さん、目を覚まされましたよ。まだ少しボーッとしてるみたいだけど。ゆっくりとならお話もできそうですから」

「ありがとうございます。向かいます」

「何かあればナースコール押してね」

「はい」

看護師さんが立ち去って、私の背中をさすってくれていた琉真が、私の手を握った。

「もう…ちょっと落ち着いた。殺しにはいかないから安心して…」

「糸。紅華のところに行ってあげて」

「……こわい」

「紅華はきっと待ってるよ。糸のこと。誰よりも糸に会いたいんじゃないかな」

「琉真は」

「少ししたら俺も行くから。二人で話しておいで」

「分かった…」

琉真の手をそっと離した。
その手はもう二度と繋がることはない。

二人とも確信していた。

琉真が時々泣き出しそうな目をしていたこと。
不安そうに私に好きだって言ってくれていたこと。

私達の恋愛には「終わり」しか約束されていなかったこと。

全部私のせいだったね。
ごめんね。琉真。
あなただけの優しさを搾取してしまったね。

「糸?」

「琉真」

「ん?」

「ありがとう。一緒に居てくれて」

「…糸はきっと大丈夫。抽象的な言い方しかできないし、何が?って感じだろうけど、糸なら大丈夫だからね」

「ありがとう。きっと、大丈夫だよね」