私が紅華の雨になれたなら。

紅華に降り注ぐ全ての苦しみを洗い流してあげることができるのに。

私の命と紅華の命が溶け合って
紅華は一生甘いだけの夢を見て、ずぶ濡れになっていればいい。

もう偽物の傘なんか要らないよ。
紅華を騙して突き落とす傘なんか要らない。

私が居る。

私が絶対に紅華だけを…守りたかったのに…。

紅華の全てが男で、あるいは女で在れたなら
こんな悲劇は生まれなかったのだろうか。

そんなことはない。

世界は優しくない。

自分にとっての常識、当たり前をあまりにも他人に押し付けるから。
自分と違うものは異質に見えてしまうから。
紅華の平穏を、願いを捻じ曲げないと自分の世界を保っていられないから。

そんな邪推で生まれただけの悲劇だ。

紅華は男でも女でもなんだって良かったんだよ。
ただここに居てくれるだけで良かったんだよ。
紅華は紅華なんだから。
性別なんてどうだって良かった。
恋人だとか家族とか親友だとか、なんだって良かった。
ただここに…ここに居て…生きてさえいればなんだって良かったんだよ。

「人はね、人が楽しいことをしてると怒りたくなっちゃうんだ」

花火屋さんでの紅華の声がふっと蘇る。

紅華の穏やかな幸せを脅かす敵がこんなにも溢れているのなら
世界なんてさっさと滅びてしまえばいい。

そう願ったって明日も明後日も何十年も何百年も世界は続いていく。

いつかこんな想いも紅華も私達も消え去って。

世界は滅びない。

身を焦がすほどの苦しみさえもちっぽけなものなんだと思った。
やるせなくて寂しくて、怒りさえもどこにぶつければいいのか分からなくなった。