「浴室に…紅華の足元に落ちてた。たぶん紅華が握ってたんじゃないかな」

「なんで私に」

「糸があげた物だろ?」

「知ってたの?」

「俺さ、紅華が肺を悪くして入院してたこと知らなかったんだよ。紅華と兄貴で、俺が必要以上に心配するだろうからって黙ってたみたいなんだ。だから糸と初めて会った日、糸があんなに取り乱してた相手が紅華だったなんて思いもしなかった。紅華が退院してちょっとしてから知ってさ。その時くらいには似たような話もあるもんだなって思うようになって。ブレスレット、だいじな子に貰ったんだって話も聞いたんだ」

「なんで千切れちゃってるの」

「…兄貴に抵抗してる時に千切れちゃったんだと思う。紅華、そのブレスレット本当にだいじにしてたから。もし…死ぬなら…一緒に持っていきたかったんじゃないかな」

「……て…やる…」

「え?」

「殺してやる!琉真ができないんなら私が殺してやる!許さない…絶対に許さない!」

ソファから立ち上がって駆け出そうとする私を羽交締めにするようにして琉真が力の限り抑え込む。
琉真の腕に爪を立てて、引き剥がそうとした。

「いとっ…糸!だめだよ糸、待って!謝るから…俺が何度だって謝る。なんでもする、償うから!」

「琉真が謝ってなんになるの!?琉真が償う意味なんかないじゃん!それで何が変わるの?紅華の何が救われるの!?ねぇ…ねぇってば!紅華はどこに…誰にどれだけ祈れば救われるって言うのよ!紅華…こうかぁー……」

顔がぐちゃぐちゃになっても涙は止まってくれない。
声が枯れるほど紅華の名前を繰り返しても、返事は聴こえない。

左手で握り締めたブレスレットの粒が手のひらに当たって
チクチクと痛痒い。