僕の雨になって

「紅華の体は俺や琉真とは違う。腕力も、声も、生物学的生理現象も、俺達とは違う」

言葉ではなく身体的に示そうとした兄の姿は、
忌み嫌い、この世から消えてくれと願ってやまなかったあの父親を彷彿とさせたのだろう。

何も知らない琉真が現れるまで、
紅華はどうにか抵抗を続けることができた。

現状を目の当たりにした琉真の中に、
理性は完全に残っていなかった。

紅華の部屋から兄を引きずり出して罵倒を浴びせながら振るえる限りの暴力を行使した。

「あいつが抵抗しなかったのはわざとだ」

怒りに満ちた声のまま、琉真は血が滲む右拳を左手でギュッと握り締めた。

血眼になって拳を振い続ける琉真を目の当たりにして、
琉真が理性を手放したこととは反対に、兄の中に理性が戻ったのだろう。

当然、琉真より兄のほうが体力もあり、腕力も強いはずだった。
スポーツジムのオーナーなのだから。

それでも兄は抵抗しなかった。

琉真が、たとえ自分の元を紅華が離れてしまったとしても、
自分が抱いた本当の感情が二度と紅華には届かなくても、

幸せになって、
幸せになって、
どうか世界中の誰よりも幸せになって、
もうこれ以上苦しまないで。

そう願った想いを兄は失念していたのだろう。

兄だから、自分のことも紅華のこともずっとそばで見てきてくれた兄だから、
なんでも相談したし、弱音も吐いてきた。

その兄に履き違えられた真実がどれだけ悲しくて痛くてやるせなかったか。

それを理解した兄は、愚かな罪が、流れる血と一緒に消えてほしかったと、
ぐったりした体から絞り出すように吐き出したという。