僕の雨になって

琉真が紅華の住むマンションに着いた時には既に遅かった。

暴れて抵抗したのか部屋の中は荒れていて、
「当たってしまっただけ」らしい、兄の爪で引っ掻かれてできた血が紅華の頬に滲んでいた。

「未遂だってことは分かった。分かったけど怖くてそれ以上は聞けなかった」

琉真の声が震えている。

触れようと伸ばした手のひらは琉真に触れることはできないまま、引いてしまった。
琉真の体がやけに小さく見えて、
このまま抱き締めてしまったら壊れて消えてしまうのではないかと錯覚してしまったから。

「紅華は女なんだよ。それを認めることであいつは前に進めるんだ。これ以上余計な苦しみに縛られることもなくなる。本当の幸せがどこに在るのかも見えてくる。あいつを正しく戻してやろうと思った。お前は女なんだって解らせてやりたかった」

身勝手にそう解釈した兄は、琉真が到着する予定時刻よりも早く紅華の部屋を訪れた。

支離滅裂な歪んだ愛情が覆ることはないまま、
兄は紅華にキスをした。

紅華は当然発狂した。

紅華は同性愛者ではない。
自分は男だと認識していて、恋愛対象は女性だった。

自分自身が抱えている問題もある分、LGBTについての理解も十分にあった。

ただ紅華にとっての恋愛観は″ノーマル″で、
自分を女性だと見做された上で、″同性″からの恋愛的なスキンシップに抵抗を示した。

自分が女であると認めることは、紅華が未来へとポジティブに歩んでいける材料にはならない。
そう認知することは紅華にとっての本物の地獄だったのに。