僕の雨になって

『糸ちゃんへ

去年のクリスマス、誘うならちゃんと当日に誘ってよって言われたこと、今年も守れなくてごめんね。
あー、俺ってさ、出逢ってからずっと糸ちゃんとの約束全然守れてないことばっかだったね。
なんで糸ちゃんは俺を好きになってくれたの?全然分かんないや。ダサいとこしか見せてないのに。変なの。

糸ちゃん、雨ってさ、粒々の点々の、一個一個だと思う?それとも糸みたいに繋がってると思う?
降り方によると思うんだけどさ。
俺は糸ちゃんと出逢ってから毎日、雨が糸みたいに繋がってればいいなって思うようになりました。
そしたらバカみたいにさ、それが糸ちゃんみたいに思えて、俺に降り注ぐ雨が全部糸ちゃんだったら、俺はこれから一生ずぶ濡れのままでもいいやって思ったんだ。

ただ日常の中に糸ちゃんが居てくれるだけで良かった。映画やドラマみたいなシナリオなんかなくてもさ、人間のリアルなんてそんなもんでしょ?
俺の言葉で糸ちゃんが笑ってくれる。俺の言葉で糸ちゃんがいちいち心を動かしてくれることがたまらなく救いになってました。
だからほんと、かっこ悪いとこばっか見せて泣き言ばっか言って、糸ちゃんに寄り掛かり過ぎちゃったね。

俺が本当の俺になれなくても、世間が認めてくれなくても、俺が俺を認められなくても。糸ちゃんが隣で笑っててくれればもういいや、なんて思っちゃったんだ。
俺は俺のことが世界で一番、誰よりも嫌いです。でももしかしたら好きになれるかもって思ったんだ。認めてあげられるかもって思ったんだ。思いたかったんだ。
あの日、糸ちゃんに出逢った日から。

糸ちゃん、ごめんね。俺は糸ちゃんの傘に穴が空いてたことなんて見えてるはずなかったんだよ。
他人の傘の穴なんて見えるわけがないし、本当は俺、視力だってめちゃくちゃ悪いんだ。

一か八かだった。あの日だって俺は自分の存在のことでヤケになってて、元カノの家飛び出して、もう自分がどこに居るのかも分かんなくなって怖くなって、
誰でもいいから俺を見てほしかった。ちゃんとここに居るって言ってほしかった。
だから目の前を歩いてた、パープルの傘の子に話しかけたんだ。めちゃくちゃ不審者だったよね、怖がらせてごめんね。でもあの出逢いはやっぱり奇跡です。

あの日、糸ちゃんに出逢えていなかったら、もしかして自分を変えることができるかもなんてちょっとだけの希望も持てないまま自堕落に生き続けるか、
死んじゃってたかもしれません。

糸ちゃんの言う通りです。
男だとか女だとかの前に自分がどう生きたいのか。
人間力も養われていないくせに形にばっかり拘っていた俺は、自分が一人の人間で、「男として」じゃなくて人としてどう在るべきかを考えられてなかったよね。

でもね、世間はあまりにも「性別」で溢れていて、アンケート一つを取ってもそうだし、公共施設も洋服の売り場も何もかも。どれだけ忘れようと思っても、生きているだけで毎日毎日俺は自分の問題と向き合わずにはいられなかった。
やっぱり俺は、今でも自分が嫌いです。

唯一、糸ちゃんと出逢えた自分のことだけは褒めてあげたい。
あの日、声をかけたのが糸ちゃんで本当に良かった。わけ分かんないこと言って苦しくさせてごめんなさい。俺が糸ちゃんを好きだって言ったことは本当です。
やっぱり思ってしまうんだ。俺がちゃんと男の体で生まれていれば、もっと強い心で全てを賭けて糸ちゃんを守れたのかな。
それか脳もきちんと女なんだって認識できていれば何も考えずに当たり前に、糸ちゃんと親友になれたのかもしれません。

どっちにしても結局、俺のことばかりでごめんなさい。
ただこれだけ。最後にこれだけ、糸ちゃんのことが本当に大切だった、あなたの存在に救われて俺は生きていました。
これだけはどうか信じてほしい。

糸ちゃん。明日は晴れるといいね。
ずぶ濡れになっちゃだめだよ。俺が消えれば糸ちゃんに降り注ぐ雨はきっとやむからね。

もう大丈夫だよ』