「じゃあ…おばあちゃん、線香花火ください」

「はいよ。お嬢ちゃん、いい夏だね」

九月。
夏はもう終わっているらしい。
でもこの店内にもおばあちゃんの心にも、
キラキラと瞬く紅華の瞳にも、夏はまだ生きていて、
手のひらに握られた「夏」も、
私の中にふっと、輝きを灯す。

花火屋さんを出たら十七時を少し過ぎた頃だった。

商店街から外れて細い路地を抜けた所に河原がある。

河川敷に座って、こーちゃんとカップのかき氷を食べた。
輪切りのレモンを齧ったこーちゃんが「酸っぱい」って顔をしかめて、
やっぱり甘党なんだなって思った。

かき氷が無くなったカップに、
コンビニで一緒に買ったミネラルウォーターを注ぐこーちゃんの横顔を眺める。

きれいな顔だと思った。

ツン、と筋の通った小さい鼻先に触れてみたいと思った。

この先もこーちゃんとおんなじ速度で毎日を歩んでいきたい。
早足になって見失ったりもしたくないし、
メソメソ立ち止まってこーちゃんに手を引いてもらうばっかりの私にもなりたくない。

同じ速度で、ずっと隣で。
こーちゃんの横顔ばかりを思い出してしまう、
そんな恋だと思った。