「明日は?琉真くんと会うの?」

「ううん」

「えー、誕生日なのに?」

「元々用事があるんだって。幼馴染に会うって言ってたけど。しょうがないよ。琉真と付き合う前から決まってたことだから」

「幼馴染って、好きだった子のことじゃないの?大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。そこの関係までどうこう言うつもりはないよ。そこでしか解決できない感情だってあるだろうし」

「そう…?私も明日はおばあちゃんちだからなぁ。ごめんね、糸。一人ぼっちにさせちゃって」

「平気です。もう十八歳になるんだから、大人だもん」

「世の中では高校生はガキンチョに分類されるのよ」

「時雨なんてまだまだ十七歳のくせに」

「じゃあいっぱいお世話してくれる?おねーちゃんっ」

「きもーい!」

夏休みが終わってしまう。
一年ごとに、忘れたくない思い出が増えていって、
大人になるたびに、二度と取り戻せないように感じる青春の時間に寂しさを錯覚する。

まだまだ子どもの私達にとって、それは錯覚に過ぎない。
大人の時間を知らない暮らしの中で、
過ぎていく青春を憂う経験を、私達はまだまだ何も知らないんだ。

九月からはまた憂鬱な二学期が始まっていく。
なのに一学期よりも通学することが「ダルい」と感じていないのは、
私が生きてきた時間の中で、今年は特に大きな出逢いが多かったからだ。

紅華の苦しみを知った日から、
琉真と共犯者になった日から、
私はただ、自分の心に言い聞かせる。

目の前の時雨がいつまでも私のそばに居てくれるようにと願う。
紅華の幸せが、できれば私のそばで続けばいいのにと願う。
琉真と私にとって、二人の想いこそが真実の愛だったらいいのにと願う。

心に絶対に消せない灯りを宿したままで。

ずるい私達が、私達を救いたい為だけの詭弁がいつか許される日を、願ってしまうことに怯えながら。