十二月二十五日、クリスマスの夜。
私達は電話で話していた。

「糸ちゃん、クリスマスなのに予定ないの」

「こーちゃんだってそうでしょ」

「俺は違うもんねー。糸ちゃんが寂しいかなって思って付き合ってあげてんの」

「それはそれは、お優しいこと」

「でしょ」

「ねぇ、こーちゃん。ずっと思ってたんだけど」

「んー?」

「なんであの日、友達のおうちにアウター忘れてきたの。真冬だよ。さすがに忘れなくない?」

「飛び出してきたからねー。彼女と喧嘩して」

「彼女」

「そ」

「彼女居るんだ…。なら今日だって会えばいいのに」

「もう別れたよ」

紅華はちょっと乾いた笑い声を出した。

「なんだ、そっか…別れてんのか」

「なぁに、糸ちゃん。ホッとした?」

「ばあか」

「はいはい」

「なんで喧嘩しちゃったの」

「それはまだ内緒だよ」

「あれれ。傷が癒えてないってやつ?」

この時の私は「内緒」だって言われて、
確かにちょっとだけ胸の辺りがズキンッてした。

なんとなく紅華は私にならなんでも話してくれるって自惚れていたから。

出逢ってまだ一ヶ月も経っていなかったのに。
たぶんこの頃から私は既に紅華に惹かれていたんだと思う。

奇妙な出逢いと、ちょっと見た目のいい飄々とした年上の男の子。
やわらかい雰囲気と、本当に嬉しそうにごはんを食べる笑顔。
なぜかゼロ距離の好意を向けてくれること。

普通の平凡な女子高生が恋をしちゃうには十分だと思った。

「ねぇ、糸ちゃん」

「なぁに」

「また一緒においしいもん食べに行こうよ」

「そういうことはクリスマスの日中に誘ってよね」

「来年は気をつけます」

来年の約束なんて、丸一年間も信じていられるか分からないけれど
私は嬉しかった。