遊園地の夜を境に、この辺りのインフラは完全に止まってしまったみたいだ。
 ガスは随分前から止まってたけど、これでいよいよ電気も水道も使えなくなったわけだ。
 キャンピングカーのソーラー充電のおかげで電気ケトルと電子レンジは使えるから、なんとかお湯を沸かしたりはできてる。
 キャンプ用の固形燃料とかもあるにはあるけど、ソーラーパネルが壊れた時に備えてそういうのは少しでも節約しときたい。
 缶詰とかカップ麺、ペットボトルの水で毎日食いつなぎながら、改めて終末なんだなあと思いつつも、俺は未だにこの現状をどこかテレビの中の出来事みたいに感じてる。
 
「あおちゃん、見てこれすごいよ。 ツナ缶に穴開けて捻ったティッシュを差し込んでから火を点けるの。 それでお米と水を入れた空き缶を上にセットしたら、ごはんが炊けるんだって」

 電気が止まったから、当然ネットはもう使えない。
 スマホ自体は充電したら使えるけど、データセンターにサーバーを維持するための電力が残ってないから受信も接続もできなくなってる。
 分かんないことがその場ですぐ調べられないって不便だし、結構かなり地味にストレスだ。

「あとはね、靴下に砂利を入れてペットボトルに装着すると川の水が濾過できるんだって。 こっちは底の丸いお鍋をふたつ使って、海水を蒸留して真水を作るやり方が載ってるよ。 これってゾンビウイルスも除去できるのかなぁ」

 ネットが使えないから、最近は近くの図書館からサバイバル関連の本を借りてきて、それを参考に色々役に立ちそうなサバイバル術を片っ端から実践してる。
 今ある食糧だっていつかは腐ったり食べられなくなったりで底をつくわけだし、少しでも生き残るための手段を増やしておかなきゃ。
 ゆくゆくは畑とかも自分で耕さなきゃならなくなるかも。

「なんかね、キクイモってのがヤバいらしいよ。 一回植えたらあとはほったらかしで無限に増えていくし、連作障害っていうのも起こりにくいんだって。 ホムセンで種芋手に入んないかな?」

 明人の態度は、普段通りだ。
 あまりにも普通の態度で接してくるもんだから、あの観覧車でのキスは夢だったんじゃないかって思うくらい。
 きっと、俺が変に意識しないようにって気を使ってくれてるんだと思う。
 正直、俺たちこのままの関係じゃダメなのかな?って気持ちの方が強い。
 明人だって、この話をぶり返そうとしたら「言えて満足だから、返事はもういいや」ってあっけらかんとしてる。
 でも、それってあいつの告白をなかったことにするってことだよな?
 それは……一番やっちゃダメな気がする。
 明人は勇気出して告白してくれたんだから、俺もちゃんと、自分の気持ちに向き合いたい。

「じゃあ、今日の目的地はホムセン決定ね。 ついでにたまってたゴミ持ってってどっかで燃やしちゃお」

 これからこいつと幼馴染みのままでいるのか、それとも今後は恋人としてやってくのか。
 どっちを選ぶことになったって後悔しないよう、きっちり答えを出さないと。

「あおちゃんってばーーーー!!」

「わあっ!」

 耳元で大声を出されて俺は椅子から転げ落ちる。
 同時に館内にいる読書ゾンビたちが一斉にこっちを見た。
 あ、図書館ではお静かにってこと?

「ボーッとしすぎ! さっきからずーっと話しかけてるのに無視してひどいよ!」

「ご、ごめんて」

 うう、やっぱり意識しないなんて無理……!
 誰かに好きとか言われたのなんか初めてだから、俺、舞い上がっちゃってるのかなぁ……?!