国道沿いによくあるお城みたいな建物、知ってる?
 今日はあそこに初めて入った。
 だって、旅の途中にたまたま通りかかった道脇にあったのが目に入ったから。
 バスとか電車に乗った時、遠目であのネオンギラギラの屋根と看板を見るたびに、中身はどうなってんだろ?って、実は昔からちょっと気になってたんだ。
 何の建物なのか知って以来は一生入ることはないだろうなって思ってんだけど、まさか明人と一緒に入る日が来るとは。
 無人のフロントの中から、とりあえず一番料金が高い部屋を選んだ。
 エレベーターは動いてないから、外付けの非常階段を使って自力で三階に上がる。
 部屋はベッドがやたら大きいのと、あとお風呂の扉がガラス張りなとこ以外は普通のホテルとそんなに変わんない。
 あとは、壁に取り付けられたテレビ台の下には、カラオケの機材が置いてくらい。
 車でシャワーを済ませてきた俺たちは靴を脱いでベッド上に上がる。
 すごい、自分の家のベッドと違って弾力が強めで、膝で圧したらボヨンボヨンする。
 ちょっと埃っぽいけど。
 
「本当に見るの?」

「見るよ。 そのために来たんだから」

 あまり気の進まなそうな明人にそう言って、俺は持ってきたノートパソコンの電源を入れる。
 レンタルショップのアダルトコーナーから適当に拝借してきたディスクの一枚を挿入して、スタートボタンを押した。
 俺たちはベッドの上に寝そべって、ふたりで並んで導入部分の映像を鑑賞会だ。
 DVDの画面の中では、競泳水着の男子が男性コーチとロッカーで抱き合っていた。
 そのままぶちゅぶちゅキスして、縺れながらベンチに倒れる。
 それで、そのあとは下着をずらして……

「えっ!? うわっ、そ、そんなとこまで舐めるの? ひえぇ……」

「無理して見なくていいよ、あおちゃん。 こういうのは、ソレ用にちょっと誇張した表現になってんだから」

「いや、見るし。 だって、恋人になるっていうことはこういうこともするってことだろ」

 俺は明人と恋人になることにしたんだから、そのうちこういうオトナな場所でオトナなこともするわけで。
 当然女子とすら付き合ったことがない俺は、男同士のやり方なんかもはや完全に未知の分野なわけで。
 明人の方も、同じくリードできるような経験はないわけで。
 だったら、ふたり揃って勉強会が必要だというわけなのである。

「これ、俺が女役やった方がいいよな。 負担でかそうだし」

「俺はあおちゃんが嫌がることは絶対しないもん」

「しないの? 俺はしてみたいんだけど、明人は俺とはしたくないんだ? 今日を逃せば二度とできないかもよ?」

「……いじわる」

 不服そうに口を尖らせる明人が小さい子どもみたいで、俺はぷっと吹き出した。
 「おいで」って両手を広げると、ちょっと戸惑うみたいに固まってから、明人が抱きついてくる。
 密着したところからドキドキって、明人の心臓の早鐘が伝わってくる。
 俺の心臓も、動いてたら今頃きっと爆音を立ててただろう。

「あおちゃん……」

 明人が顔を近付けてきて、キスをする。
 マスクごしじゃない、ちゃんとした唇同士のキスだ。
 さすがに今は明人も撮影は自粛してる。
 そっちの方がいい。
 カメラのレンズごしにじゃなくしっかり俺を見て、目を瞑ってもいつでも俺の形を思い出せるくらい、今を網膜に焼き付けてほしい。
 一旦離れては、不安そうに目を潤ませて。
 それを振り払うみたいに二回目のキス。
 三回、四回と唇の谷を擦り合わせて、お互いもっと深く相手の中に入り込もうとくっついて、……DVDの映像みたいに……。
 ──そして、とうとうこの日俺たちは結ばれて、本当の意味で恋人同士になったんだ。