『よーし、みんな、よく聞いて! 今日は先生が、魚の下処理のやりかたを超分かりやすく教えてあげるよ! これをマスターすれば新鮮な魚をおうちで楽しむことができるから、しっかりメモしてね!』

『まずは準備するものだよ。下のテロップにまとめたから、一時停止して読んでね。 さあ、準備OK?それじゃ、捌き方の手順を一つずつ、ゆっくり解説していくよ!』

『ステップ1、魚を新鮮かどうかチェックしよう。 魚の目が澄んでて、身がピチピチしてるのが新鮮な証拠! 変な匂いがしたら、先生に相談してね。 シンクに流水を準備して、まな板を清潔に! 包丁もよく研いでおくんだよ。 切れ味悪いと、身がグチャグチャになっちゃうからね!』

『ステップ2、ウロコを落とすよ。 ウロコは尾から頭に向かって、包丁の刃やウロコ取り器を使って取り除いていくのが基本だよ。飛び散らないようにシンクの近くでやろうね!』

『ステップ3、内蔵を取るよ。 エラブタに包丁を入れて、エラを切り取るよ! 次に胸の下から肛門の手前まで切り込むと、ペロンとお腹が簡単に開けちゃう! この時包丁を深く入れすぎると、内臓を傷つけちゃうから注意しようね! 内臓を指でつまんで取り出すよ!』

『ステップ4、流水で血を綺麗に洗い流すよ。 洗い終わったら水気をしっかり拭き取ってね。 水気はカビや腐敗の原因になっちゃうから。 このまま姿煮にしてもいいし、すぐに食べない場合はきつめに塩をまぶして冷蔵庫に入れておくと長持ちするよ!』

『ここで先生からのアドバイス! 魚の取り扱いは何よりも清潔が命だよ! 手や道具は作業前にしっかりアルコールで消毒しようね!』

『分からないところがあれば、ステップごとに巻き戻して確認しようね! さあ、これでキミも今日からお魚マスターだ!』


 充電したDVDプレイヤーから陽気なエンディングクレジットが流れる。
 俺はお腹を擦りながら、「あんまり手順通りには出来なかったな」とプレイヤーからディスクを取り出した。
 シンクでは明人がまだ手を洗ってる。
 ペットボトルの水、結構使っちゃったな。
 また他のスーパーに行って調達してこないと。

「しかし、初めて入ったけどレンタルキッチンってこういう作りになってんだな。 なんか小学校の家庭科室みたい。家のキッチンだと狭すぎだし、病院はゾンビだらけでとても入れそうになかったからさ。 最初はこれ無理目じゃね?って思ってたんだけど、意外と何とかなったな」

「……あおちゃん、痛いとことかない?」

「うん、作業中はちょっとちくちくしたけど平気。 むしろ身体が軽くて楽っていうか。 でもまだお腹は変な感じかも」

「慣れるまではしばらくはゆっくりしてようね」

「うん」

 俺はちらりと明人の横に置いてある、生ゴミ用に用意したステンレスの鍋を盗み見た。
 
「それ、どうする? また学校に行って燃やす?」

「ううん、これは埋めることにするよ」

「埋める?」

「うん、花の種と一緒に花壇に埋めるんだ。 きっと綺麗な花を咲かせてくれると思うから」

「そうかなぁ? 野犬ゾンビとかに掘り返されたりしない?」

「ちゃんと頑丈にフェンス立てるから大丈夫。 それに、地植えしたら来年も再来年も楽しめるでしょ。遊園地行った時みたいにさ、またお弁当用意してお花見デートしようよ」

「まあ、明人がそれでいいっていうなら俺は別に構わないけど」

 俺の誕生日を祝ってもらってから数日が経った。
 明人は少しは元気を取り戻してくれたのか、それともただ吹っ切れただけなのか、前みたいに明るい顔を見せてくれるようになった。

「そうだ、あおちゃんが休んでる間に一旦家に帰っていい?」

「いいけど、家に何かあるのか?」

「デジカメを取ってこようと思ってさ。 付き合い始めた記念に、今日からあおちゃんのこと動画に撮っとこうと思って」

「えー、なんか恥ずかしいんだけど」

「いいじゃん、あとで見返せるようにしたいんだよ」

「しょうがないな、もー」

 せっかく撮ってくれるんだから、俺もめいいっぱい笑うようにしないとな。
 明人が笑ってくれてると、俺も嬉しい。
 明人も同じように感じてくれてるといいな。