捨てられ更衣は、皇国の守護神様の花嫁。 〜毎日モフモフ生活は幸せです!〜

出発


 目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。そしてそばにいたのは、銀髪の殿方でこちらを見て「おはよう」と私に言う。
 それに応えようと起き上がれば頭が覚醒をした。
「朝から不躾に来てしまい申し訳ない。私は華陽の領主である珀という。姫君の夫となるものだ」
 混乱の中、私は姿勢を正し礼をする。
 この部屋がどこなのかわからないし、目の前の殿方は昨日はいなかった私の下賜先の殿方だというし……何がなんだかさっぱりわからない。
「昨日は迎えに行けなくてすまなかった。詫びと言ってはなんだが、装束を持ってきた。着てくれるか?」
 そう言われ頷けば、見たことのない女房が二人が入ってきた。
「初めまして、姫様。これから衣紋させていただきます。着替えをいたしましょう」
 女房たちは手際よく装束を持ってくるとまず長袴の着装をした。五衣を重ね着をして裳を着けると唐衣を着装する。
 そういえば古い傷は見られなかっただろうか……何も言わないだけで怖がらせてしまったかもしれない。
「とてもよく似合っておられます。珀様をお呼びしますね」
 女房たちは礼をして退室すると、すぐに珀様が戻ってきた。
「よく、似合ってる。やはり君にはこの色が似合うね。じゃあ、そろそろご当主に挨拶に行こうか」
 私が頷けば、珀様は私に優しく微笑んで導くように隣に立ち、ゆっくりと歩き出した。

 部屋から出ると分かったのだが、ここは客間だったらしい。客間から出てすぐ、父が前の方からやって来た。
「白虎様、もう出発なさるのですか? 朝餉のご用意があります」
 珀様は何か言っているようだけど、前にいるから何を言っているのかわからない。だが、目の前の父の様子を見る限りいい話とは思えない。
「いや、でしてもな……まだ時間が早いですし、そうだ。咲良がお世話になるのですし、娘も領主様にはご挨拶がしたいと言っておりました」
 父は必死に話しているがいい回答がもらえなかったようで私を睨みつけていた。そんなに睨まれても話はできないし、もしも珀様と夫婦になれなくてももう会うことないと思うから安心してほしい。
 そんなふうに父と珀様を見ていると、いつの間にか玄様がやって来ていて「大丈夫ですか?」と私を見て言葉をかけてくれた。
「珀様、咲良様。馬車の用意ができましたので出発いたしましょう」
 そう玄様が言えば、珀様が私を見た。
「姫さま、準備が整ったようだから行こうか」
 珀様は私に近づくとふわっと体が浮いた。
「……っ……」
 何が起こったのかわからなかったが、すぐ珀様に私を抱き上げられていることを理解する。そして父の横を通り過ぎて、屋敷を出ようとした時。
  朝早くなのに華美な格好をした義妹が叫びながらやってきた。それに対し、珀さまは何かを言う。口の動きからして“なんでしょうか、ご令嬢”と言っていると思う。
 珀さまは振り向かなくて顔も見てくれない彼に義妹は機嫌が悪くなった。
「なぜ、そんな奴がいいんですか!? 可愛くもない何もできない能無しが…! ろくに話せないそいつより、私の方が優れていますわ。楽しませられます。相応しいでしょ?」
 横目で見ると私を睨みつけて口の動きではそう言っているようだったが、白虎さまは彼女を見ないままに口を動かす。
「“何を根拠に、あなたはそう言っているのですか? あなたのように下品な姫君が守護神の一人である白虎()の花嫁など論外です。それに、貴女なんかより美しい方を花嫁に出来て私は幸せです”」
 そんな風に口の動きから読み取れた。もしかしたら、私が言って欲しかった願望かもしれないけど……顔が熱るのがわかる。
 そんな中、義妹は思いっきり睨み何かを叫ぶと屋敷へ入って行った。

 彼女を見送り、屋敷を出るとすぐに飛び込んできたのは牛車の牛ではなくて馬だった。馬の近くにいた御者は私たちが近づくと「おはようございます」と言い馬車のドアを開けた。
 馬車の中は牛車の作りと同じらしく畳敷で、抱き抱えられたまま中へと珀様と乗った。
「そうだ、これを持っていて」
 珀様はお召し物の中から五色の糸で作られた卯鎚(うづち)を取り出した。
「姫を守ってくれるからね、必ず持っているんだよ」
 私はそれを受け取ると口だけを動かして『ありがとうございます』と伝えた。
「うん、私は馬に乗って行くから」
 珀様は馬車の扉を閉めると、前にいる馬に近づいて慣れたように馬に乗った。前に珀様がいて私を挟んで後ろには玄様が付いて出発をした。