捨てられ更衣は、皇国の守護神様の花嫁。 〜毎日モフモフ生活は幸せです!〜

 御神木

 朱雀家のお城を出発し、一刻ほど。現在は、真珠領と華陽領の境にある甘味処にて一休みをしている。私の前に置かれたのは、タレが掛かっているお団子とお抹茶だ。
「咲良様、この団子に使われている米の粉はうちで作っているものなんですよ。だんごに掛かっているタレは真珠領のものなんですよ」
 お団子はモチモチでタレは甘辛く、とても美味しい。七殿五舎にいた頃は味わえなかったものが食べることができてとても幸せだ。それに温かい食事も嬉しい。寒いわけではないが、ホッとして温まる。
「こちらの餡子を作った大福餅も美味しいです。道中、食べられるように包んでもらったのでまた後で食べましょう」
「珀様、それは貴方様が食べたいだけでしょ?」
「あはは、いいじゃないか。まだまだ道は長いんだし、時間は掛かる」
 珀様と玄様はじゃれ合うように仲良く話をしていて微笑ましい。まるで兄弟のようだなぁなんて思ったりする。
【私も食べたいです。珀様、玄様ありがとうございます】
「咲良様、甘いですよ。そんなふうに言ったら、またこの方は調子に乗りますのでここらへんで白虎に戻って欲しいくらいで……あ、そういえば言い忘れておりました。私のことは玄とお呼びください。私は、咲良様に様を付けられるような位にはおりません」
 彼はそう言い「さぁ、行きますよ」と私と珀様に声をかけた。珀様が立ち上がると私も立ち上がり彼らについて待っていてくれていた馬車に乗り込んだ。


 それから順調に進むと、華陽領に入る前には大きな朱い大鳥居が現れた。馬車からその大鳥居を見上げると黒色の扁額には金色で【華陽ノ領】と描かれていてこんなの初めて見る……というか、この鳥居を通って入るのかしら?
「ここから華陽領です。この鳥居を抜けますと、神域に入ります」
 神域……?ということは華陽領は神社の中にあるっていうこと?
「咲良様が考えられていることは正解だと思います。ここから先は神社です。ここは皇国ができる前から、守護神として白虎様が守護していた華陽神社と言われていました。初代白虎家当主様が人の娘と婚姻をしてその親族をこの神域内に住まわせたのが最初となります。皇国が出来た時、住む人はとても多くなっていて初代帝からここを領地とし、華陽領と名付けられたんです」
【それでは、ここに住む方々は神の末裔なのですか?】
 私がそう問えば、隣で説明を聞いていた珀様が首を振る。
「今、ここに住むのは末裔もいるが血はすでに薄れている。帝と私の許可があれば、住むことはできるからここは神社の中にある村だと思ってくれればいい」
 知らなかったことを説明されながら馬車は関所に到着した。
 四脚門が聳え立ち、屋根を重厚な黒瓦で固め両脇には太い鏡柱、その上には来訪者を威圧するかのような大きい梁がある。圧倒的な存在感だ。
 四脚門の両端には武官らしき人が二人立っており、そちらに御者が声を掛けるとどこからか番守(ばんかた)が出て来て通行証の確認や誰が通るのかなんのために通るのかといった検問を始めた。

 一通り終わると、馬車は走り始めて四脚門から入った。いろいろな建物が立ち並び、真珠領のように店が並んでいる。違うのは食事処があまりないみたいだ。あるのは雑貨を売っている店だ。
「咲良様。城に向かう前に寄らねばならないところがありますのでお付き合いください」
 よらねばならない場所?そういえば、西の領地には大きな木があるって聞いたような気がする……確か、玄さんが最初に教えてくれた。神が宿っていると言われる御神木で代々華陽領を任せられた白虎家とその領民が守り祈ってきたために何よりも大切なものだと……
「……着きました。咲良様。こちらが、領になる前から華陽の地を代々守ってくださる木です。そして、この周りを囲むのは注連縄です。毎年、領民と注連縄を作り珀様が結界を張っております。この木があることで、珀様がいなくても代わりに守ってくださるんです」
 私は彼らの後を付いてその神木の前に行くと立膝座りをした。突然、その場で座り出した私に玄さんは驚いた様子でこちらを見て私のそばでしゃがんだ。
「咲良様、座らなくても大丈夫です。ここに住む者でも立ったまま手を合わせます……咲良様がそんなことをされなくても」
 玄さんはそう言ったが、これからお世話になるましてや珀様に嫁ぐ私が立ったまま手を合わせるだなんて失礼だと思ったための行動なので私はそのまま彼らに微笑んで目を逸らして目を瞑った。そして静かに手を合わせる。
 挨拶をして私は横にいた珀様を見つめると、御神木にも珀様にも失礼かも知れないがそのまま紙に【これからお世話になります。白虎家ご当主様。まだ何も知らない未熟な娘ですが、ご当主様の為尽力したいと思いますのでこちらに住まわせていただきたいのです。】と書き見せた。
「……あぁ、もちろんだ。元更衣様、こちらこそよく来てくださった。私は歓迎するよ。貴女を必ず幸せにする」
 珀様は私の手を引いて御神木から離れ、神殿へと向かった。
「さあ、中へ行こうか」


 彼に手を引かれ歩く私には想像もしていなかった。
 愛されたこともない私が愛されて、誰かを救うことになるなんて――知る由もない。




                END.