「一回しか会ってないのに寂しかったなんて、変ですかね?」
「どうですかね。でも、私も同じこと思ってました」
「じゃあ、変な人同士ってことで」
「そうですね(笑)」
ようやく硬直が解けて、抱きしめあったまま力を抜いて二人で笑った。
このままで良かったんだ。
何も言わなくて、良かった。
ただ、水島コンビナートの夜景を見ながら肩をくっつけて、言葉は交わさずゆっくりと時間が流れた。
前にお勧めしてもらった夜景ピクニックも、今日は日が昇るまで堪能した。
何も持ってきていなかったので、おにぎりを一つ分けてもらい、一緒に食べる。
「ふりかけだけで、ごめんね」
「美味しい」
誰かと食べるだけで、そのご飯は美味しかった。
このまま空が明るくなりませんように。
そんな願いも叶わないけど、日の出も一緒に見て、目の前に広がる工業地帯は照明も消えて、ただの工場の集まりに変わった。
「帰らないと…」
「俺も。そろそろ帰らないと」
また寂しくなるな。
口には出さなかったけど、柵に寄りかかって隣に立つ、好青年の袖をキュッと引っ張った。
私の行動に気づいてこちらを見る好青年。
「ん?」
「…ううん」
「何(笑)寂しい?」
「寂しくない、わけじゃない」
〝何じゃそら(笑)〟と笑いながら、袖を掴む私の手を握られる。
握った私の手の甲を親指でなぞりながら、好青年の表情が段々と俯いて暗くなってきた。
聞かれたから答えたけど、言わない方が良かったのかな。
でも今焦って訂正してもな。
「そんなの言われたら…。俺だってもっと君と居たいよ。…あ。車、乗ってく?自転車なら、後部座席に乗せられるし」
「え、それは…。私、県内じゃないし」
「俺も県内じゃないよ。山口から来てる」
「私、広島」
「じゃあ、乗ってけるじゃん。一緒に帰ろ」
言っても良かったみたい。
それに、私より強者だった。
車とはいえ、山口なんてここから何時間かかるんだろう。
「ほら、帰るよ。乗って、シンデレラ。魔法がとけちゃう」
私が自転車で何時間かかっていたか考えていると、おとぎ話のように話しかけられた。
シンデレラなんて格好でもないし、あんなに純粋な心も持っていない。



