目的が、いつからか夜景から好青年に変わっていた。
この夜景を見ると、心が洗われる。
その夜景を見る好青年を見ると、心が締め付けられる。
締め付けられるのは、好きだから?朝が来たらまた会えなくなるから寂しくて?
また必死に探して、会えない寂しさを重ねて背負うのは辛い。
頭の中だけで繰り広げる独り言を消そうと、キンキンに冷えた水を喉に通すと、思った以上に冷たくて、咽せた。
「大丈夫?」
「冷たくて、咽せました」
ここに居て、この好青年と居ると、何もかも忘れられて幸せ。
そう思ってみたい。
名前も知って、電話番号も交換して、いつでも電話ができる。
優しく背中を撫でてくれている、この手に縋ってみたい。
好青年はどう思うだろう。またしばらく姿を見せなくなるのか、ずっと会えなくなるのか。
こんなことを考えてモヤモヤ過ごすなら、このままが良い。
「もう大丈夫です。ありがとう」
そう?とすぐに手が離れて、背中から温かみが消えた。
このままを選んだのは私だけど、何の名残もなく離れたから、温かみが消えるどころか、触れられていたところが冷たく感じる。
やっぱり寂しいなと気持ちを落とすと、好青年がモゴモゴと言い出して席を立ち、私が座る車輪止めの方に座ってきた。
急に近くなる距離に、心臓はバクバクで声が出ない。
「自販機でコーヒー買った時」
「…?」
「寂しかったって言ってたけど」
「…はい」
「俺も、同じ気持ちだった」
心臓が止まりそうになって、固まったまま好青年をゆっくり見つめた。
ここに来ても会えなくて、夜景を見ても綺麗だと思えず、心が動かなかった。
その気持ちと同じだと?
「同じ、気持ちっていうのは…」
「…抱きしめても、良いかな」
急展開すぎて付いていけてないけど、好青年の言葉に頷いて、すぐに柔軟剤の香りにふわっと包まれた。



