私が漕いできた自転車の籠に、私が買ったコーヒーと好青年が買った水を入れて、自転車を押してもらって前に座った駐車場まで歩いた。


会話はなく、二人の距離感も付かず離れず。




手を伸ばせば好青年の服を掴めるけど、また困らせてしまうから、やらない。





自転車は柵に立てかけて、二人並んで車輪止めに腰掛ける。


バレないようにほんの少し、好青年の方へ寄って座ってみた。




好青年から水を受け取り、半分こするコップがないなと考えていると、缶のプルタブを開けてそのまま口をつけて飲み出した好青年。





「えっ、半分こ…」





私のツッコミも届かず、数口コーヒーを飲むと私の方へ差し出してきて、受け取らない私に首を傾げた。





「俺が口つけたの飲むの、嫌でした?」


「…嫌じゃない、です。でもすんなり受け取るのも、違うなって思ってしまって」


「じゃあ…、はい。どうぞ」


「…いただきます」





恐る恐る受け取って、缶コーヒーに口を付けた。



私が飲む瞬間を、目に焼き付けるように見入る好青年。


そんなに見られると、飲みづらい。





「…美味しい」


「良かった。そういえばさっき、夜にカフェイン摂ると良くないって言ってたけど、何でですか?」



「カフェインは摂りすぎると、目が冴えてしまうので。夜には大敵です」


「でも今の俺らには、カフェインが必要だね」


「そう、ですね」





日が昇るまで、ここに居る。


それまでは、絶対に起きていたい。



好青年の言う通り、私たちにはカフェインが必要だ。





「もう一口、もらって良いですか?」




あと数口で終わるコーヒー。


ブラックコーヒーのはずなのに、甘かった。



恋をすると、ブラックコーヒーの味も砂糖入りになってしまうみたい。




口直しに水を飲もうと思っていたから、そのままコーヒーを渡した。


喉を大きく動かす好青年を見ながら、水のキャップを左に捻る。





「飲んじゃっても良いですか?」


「はい」


「ありがと」





視線を好青年から工場の方へ移した時、頻繁に来ていたはずなのに、久しぶりに見た気がした。



この場所だけ、不自然に輝く夜景。