「何で居るんですか…」
失礼な言い方だけど、声に出てしまった。
忘れたかったのに、何故ここに居るの?
「いつ来ても居なかったのに。寂しかったのに…」
「仕事が忙しくて来れなくて。ごめんなさい」
謝るあなたは、以前よりも頬がこけて顔色も少し悪い気がする。
本当に仕事が忙しかったみたい。
「ねぇ、泣いてるの?」
頭の中で感情がごちゃごちゃになって、好青年を見つめたまま泣いていた。
目を見開いて、流れた涙を拭こうと頬に手を伸ばしてくれたのに、顔を背けて自分で拭った。
「飲み物、私のお金で買うの卑怯ですよ。何買ったんですか?」
寂しかったと言ってしまったけど、一度しか会ったことのない女性から、涙を見せて寂しかったと言われても、困るに決まってる。
相手に同じ気持ちがなければ、引かれるだけなのに。
自販機の受取口から出てきたのは、缶のブラックコーヒーだった。
また買ってる。
顔を見せないように、涙を見られないように缶を渡した。
何も言わずに、受け取ってほしい。
下を向いていると両頬を挟まれて、前を向かされてしまった。
「やっぱり泣いてる」
「…泣いてないですっ」
ダメだ。
あなたの顔を見ると、涙が出る。
そんなに、この人のことが好きなのかと自分でも驚く。
今度こそ、流れた涙を拭われてしまった。
何も話さず、無言で見つめ合う時間が続く。
ただ眉尻を下げて私を見つめている好青年と、必死に嗚咽を堪えている私。
目の前に居る、実在している。
それだけで安心できた。
でも涙は止まらない。
「…夜中にコーヒーは、良くないですよ」
「そう?」
「カフェインは夜に摂らない方が良いです。違うものを買いましょう」
「じゃあ、おすすめ教えてください」
「…水、です」
「水か(笑)じゃあ俺が買うね」
頬から手が離れると、滑らかな動きで自販機にお金を入れて、水のボタンを押して取り出した。
「コーヒーと半分こ、しない?」
「半分こ」



