どの影も二つ以上で、カップルか家族。


あまり背は高くないけど、私は影であの好青年を見分ける自信がある。



隣に立つ好青年の姿、私よりも数センチ背が高くて、視線が好青年の唇ほど。


男の人にしては細めの体格だけど、筋肉は多分程よくついている。



遠くから探していたけど、駐車場やそこから奥まった小さな山も見てまわった。





「いない…」




諦めろってことか。


私とあの好青年は、もう出会うことはない。



でもここまで必死に漕いできたから、水分を取り忘れていた。


自販機で冷たい飲み物でも買って、休んでから帰ろう。




この間もらったココアは温かったけど、もう冷たい飲み物が欲しくなる季節。



駐車場の外れにポツンとある自販機に、百円一枚と五十円一枚を入れて、炭酸のペットボトルを買おうか缶のココアを買おうか迷っていると、突然右後ろから手が伸びてきた。




卑怯だ、順番は守ってもらわないと。


それにお金を入れたところだから、後ろの人に飲み物を奢ることになってしまう。




好青年を見つけられなかった寂しさを押し付けるように、大袈裟に注意しようと振り返った。





でも私が後ろを振り向いて注意しようとしたタイミングと、後ろから手を出してきた人が飲み物のボタンを押すタイミングが被って、奢り返してもらえば良いかと半ば諦めモード。



ボタンを押されてしまい、飲み物が受取口でガチャンと音を立てるも、私にはその音が耳に入らなかった。





「…いた」




後ろに居たのが、好青年だったから。



もう会えないと思って、あの場所に行くんじゃなかったと後悔したし、好きになるんじゃなかったと自分を責めた。




今、あなたの顔を見たら泣いてしまう。


会えて抱きつきたくなるくらい嬉しいけど、このまま諦めたかった。



忘れさせて欲しかった。