「あ、もう日の出だ」


「本当ですね」




あっという間でしたね、なんて言えば私がこの時間を楽しんだことを丸出ししてしまって恥ずかしい。


言わずに、当たり障りのないことを言おう。




「…日の出だ」




考えすぎて、復唱しただけ。


こっちの方が恥ずかしい。





「あっという間だったな。君と過ごせて楽しかった」


「え…。お邪魔じゃなかったですか?」


「邪魔だなんて。そんなの思わないよ。むしろ今日は、一人でいたくなかったから…。君が居てくれて、嬉しかった」





私が言わないでおこうと思っていたことをすんなり言われて、飛び上がって喜んでしまいそうになったけど、どうにか抑えた。


でも、一人でいたくなかったと言う好青年の表情は曇っていて、思わず踏み込んでしまいそうになった。




お互いに名前を聞かずに日の出を迎えてしまったから、このまま聞かない方が良いんだと思う。



知りすぎてしまうと、聞かなくても良いことにまで踏み込んでしまうから。





「また、来ようかな…」


「…」





いつ、とは言わなかった。


好青年も返事をしなかった。



よく来るとは言っていたけど、きっと毎日来ても会えない。




その返事の通り、一週間ぶりに行ってみたけど、会えなかった。


陽が沈む時間からそれが昇るまで待った日もあったけど、会えない。



車輪止めに腰掛けて感動した夜景を見ることもなく、頬杖をついてただ待ったけど、来るのは夜景を見に来た幸せそうなカップル。



手を繋いで肩を寄せ合って。


時には輝く指輪を見せられて、泣き崩れる女の子も見た。




微笑ましい光景を見る度、あの好青年は幻だったと思うほど架空の人物になっていった。



会いたいと思う時に一人だと気付かされて、自分の首を絞めている。




「今日行って、会えなかったらもう行くのやめる」




そう言いながら、どうにか居てほしいことを願って、今日も三、四時間自転車を漕いだ。



長時間の運転にも慣れて、足は棒にならなくなったし、寂しさも感じにくくなっている。


正確には、感じにくくなるように自分に暗示をかけている。





水島コンビナートの変わらず綺麗な照明たちを横目に、あの好青年の影を探した。