「どうも、こんばんは」
「…こんばんは」
いつまでここに居ようか。
朝日が昇るまで独り占めも悪くないと思っていると、すぐ近くから男の人の声が聞こえて、飛び跳ねた。
誰も居ないと思っていたのに。
暗すぎて見逃していた。
「ここ、良いですよね。そこよりも、こっちの方が良い眺めですよ」
良ければ、と勧められて、私が一人で気まずくなっていただけだし、この気まずさは伝わらないだろうと、恐る恐るその男性のそばへ寄った。
「お邪魔します…」
「どうぞ」
車輪止めに腰掛けて、前を見ると言葉を失った。
もしかしたら、どこから見ても感動してしまうかもしれない。
「綺麗…」
「ここ来たの、初めてですか?」
「はい。こんな綺麗な夜景、初めて見ました。心が洗われたみたいです」
「ここは、水島コンビナートって言います。工業地帯なんですよ」
水島コンビナート。
携帯で、教えてもらった言葉を調べてみた。
目の前で見えている景色と同じものが、携帯にも写っている。
加工して明るく見せていて、鮮やかで綺麗だけど、断然生で見た方が美しい。
「俺、夜中によくここに来るんです。人も居ないし」
「へぇー。仕事終わりですか?」
「えぇ、そうです。それで、空が明るくなってきたら帰ります」
「それは、お疲れ様ですね…。毎日この景色見れるの、羨ましいです」
仕事終わりにここに寄れたら、仕事もどうにか耐えられそう。
嫌なことは忘れられないけど、一瞬でも手放せるのは助けになる。
「じゃあ、君も毎日来たら良いのに」
「え!?それは…。遠いので」
と言ったけど、毎日来ても同じように感動するだろうし、毎日来れるなら来たい。
「でも…、たまに来たいです。ここ、癒されます」
「是非そうしてください。癒されに来てください。俺のおすすめは、夜景ピクニックです」
ご飯は食べてしまったからと、缶のココアが私の前に差し出される。



