車輪止めに座ったり、柵にもたれかかってみたり。


何時間ほど待っただろうか。



そろそろ、諦めた方が良いかな。





「…こんばんは」




背後から遠慮がちに挨拶が聞こえてきて、振り返ろうとして体が固まった。


…好青年と同じ声だけど、好青年じゃない。




もっと軽い口調で、〝よっ!〟なんて言ってくる人。


出会った時の挨拶と変わらないから、きっと別人。




「こんばん、は…。あの、」


「やっぱりあなただ。俺の兄と、ここで会ってましたよね?」





声も変わらなかったけど、顔も一緒。


完全に好青年と一致していた。



ただ、声色は大人しく、好青年より引っ込み思案のように思える。


好青年には兄弟がいたんだ。




「良かった。ここで自転車と一緒に居ると思うって言われて来たんです」


「お兄さんに言われて…。なぜ弟さんが来るの?」


「それは…。事情がありまして」





双子のような弟から封筒を一つ渡されて、その先は何も言わずに私の後ろにある景色に目をやった。





〝名前も知らないあなたへ〟




封筒の表には、歪な文字でそう書いてあり、裏返すと宛名は白紙だった。


やっぱり名前、教えてもらえないか。




封を開けると、三枚の手紙が入っていた。





〝こんにちは、久しぶり。そして、びっくりしたでしょ?二歳下の弟なんだけど、顔も声も一緒だから、双子によく間違われるんだよね。

弟にはこの手紙を託して、ある女の子に渡してほしいと伝えました。水島コンビナートの駐車場にいて、柵に自転車を引っ掛けてて、車の車輪止めに座ってる女の子。髪の毛はボブで、可愛らしい顔立ちの子だと弟には言ったけど、見つけられたかな。これが読めてたら、成功だね。俺と弟の好みのタイプが一緒だから、多分すぐに見つけてる。もし良かったら聞いてみて。すぐ見つけたって言うと思うから。〟



一枚目はこれで終わった。


キリも良かったし、弟に聞いてみることにした。




「あの…。私がどこにいるか、すぐに見つけました?」


「ええ。特徴は聞いていたので。割とすぐに見つけましたよ」


「ふふっ。そうですか」


「え、何ですか?兄が変なことでも書いてました?」


「いえいえ。…私とお兄さんだけの、秘密にします」




私の返答に焦る弟を差し置いて、二枚目に目をやった。