「シンデレラなら、もうとっくに魔法はとけてるよ。五時間前くらいに」





朝の五時。


魔法はとけたけど、車に乗ればまた魔法にかかれる。





「あれ、そうだっけ?魔法ってそんな夜中にとけるの?」


「そうだよ。良い子は、夜更かししないですから」





冗談ぽく、私たちの夜更かしを指摘すると、好青年も冗談ぽく私の目の前で片膝をついて、右手を差し出してきた。





「じゃあ君は、悪いお姫様だ」


「あなたも。悪い王子様」




そう言って差し出された右手に自分の右手を重ね、左足を少し後ろに引いてお辞儀をする。





「では、地獄行きの馬車へお乗りください」


「それは乗りたくないな(笑)」





ひとしきりの冗談も終えて、何をやってるんだと笑って車に乗った。



助手席に座ると、すぐに好青年も運転席に座り、エンジンをかける。





「眠くない?運転代われないけど、眠かったらどこかに停めて寝てね」


「お気遣いありがとうございます、お姫様」


「もうそれ良いから(笑)」





私の自転車も積んで、車は広島経由山口行きで動き出した。



夜中に何時間も話したはずなのに車の中でも話は弾み、昔の恋愛話に。





「私は二人付き合ったことあるけど、二人とも良い人だった。冗談が通じない人たちだったけど」


「じゃあさっきみたいなことやっても、全然盛り上がらないんじゃない?」


「シンデレラの件(くだり)?」


「そうそう。良い意味で真面目すぎない方が、通じるよね」


「あなたは真面目じゃないってことね」


「それは語弊があるな」





時々堅苦しいなと思うこともあったから、次誰かと付き合うことになるなら、冗談が分かる人が良いなと思う。


この好青年みたいに。






「あなたは?」


「俺は…。付き合ったことないんだよね」


「それは、冗談?」


「いやいや、冗談じゃないよ。本当の話」





嘘だ。

こんなに面白くて楽しい人、彼女がいなかったわけない。



彼女がいたらいたで、どんな人なんだろうって気になって、昔の彼女に嫉妬したりなんかするんだろうけど。





「作らなかったってわけじゃないけど、気づいたらこの歳になってた」


「ふーん…。さすがに告白はされたよね?」


「それもないよ。俺のこと、甘く見過ぎ。モテる顔してないでしょ」





いや。ウケる人にはウケる顔をしている。


濃いめの日本人離れしている顔で、キリッとしていて、私はカッコいいと思う。