今、私はどこに居るんだろう。


自転車のペダルを漕ぎ過ぎて、足が足じゃないくらい思うように動かない。




自転車に跨ったまま、唯一家から持ってきた携帯の画面を明るくして現在地を検索すると、岡山県倉敷市と出た。





「足が棒になるわけだ」





隣県の福山市から自転車をひたすら漕いで、足の感覚がなくなってきた頃に、目の前に広がる絶景に目を奪われた。





〝息を呑む〟




そんな大袈裟な言葉、ただの比喩でしかないと思っていた。


まさか私に、息を呑む日がやって来るなんて。





強い光に照らされた四角い建物が隙間なく建っていて、所々に一際高く目立つ煙突からは、白い煙がモクモクと上がっている。



周りが真っ暗だと、強い明るさが輝いて見える。


この絶景に名前があるのか知らないし、夜中に仕事をしてくれている人たちが居るから、この景色が見られるんだと思うと、さらに感動が増す。




もっとしっかり、目に焼き付けたい。


自転車から降りて押しながら、ゆっくりと良い眺めのポイントを探す。



こうして何の邪念もなく、単純に美しい景色だと感動できたのは、何年ぶりだろうか。




賛同できない利己的な意見にのまれて、心を動かされることはなかった。


今この景色を綺麗だと思えているのは、現実から逃げてきたからだろうか。




一日だけ。


そう決めて、後ろめたさも捨てて、行き先を決めずにやってきた。



私もあの工場が放つ光みたいに、純粋にただ光るだけで綺麗だと、誰かの心を動かしてみたい。




自分が一番綺麗だと思うポイントを見つけると、柵に自転車を寄り掛からせた後、背伸びをして足首をその場でぐりぐりと地面に押し付けた。


三、四時間ほど自転車を漕ぎ続けたせいで、背中はバキバキで足は攣りそう。



背伸びを開放すると同時に深呼吸して体の力を抜くと、また目の前の景色に心を奪われた。


本当に綺麗だ。



夜中だから人も居ないし、この景色を独り占めなんて、贅沢。