翔吾は俺の火傷を見てもいじったりせず優しく接してくれた。だからこの火傷のことも翔吾にならと話したんだ。
『ケイは優しいんだね』
『そんなこと……』
『簡単なことじゃないよ、俺が同じ場面にいたら焦ってみんな燃え尽きちゃうよ』
『お前もお前であれじゃないか?』
『えー普通じゃない?冷静でいられないと思う』
『それはそうかも……』
『でも今度ケイに何かあったら俺が守ってやるからな』
……あの時のセリフも告白だったのかな…その時はただ頼りがいあるな〜くらいに思ってたけど……
でも俺は翔吾のことが好き。アオイを傷つけまいと咄嗟にはぐらかして事なきを得たけど……いつかアオイにもそのことを伝えないとそれこそ傷つけてしまうだろうな……
「アオイも俺追っかける理由わかるし………うーん…」
俺がどうしたもんかと悩んでいると突然部屋の扉をノックされた。
「ケイー、服買ってきたんだけどほしいのあったら貰ってよ」
「うん………」
俺が部屋の扉を開けるとそこには顔が見えないほどの服の山を抱える姉貴が立っていた。
俺はそんなのどうでもいいと思い、適当に選んでベッドへ戻ろうとした。
「……あんた疲れてんじゃない?それメイド服よ?」
「え」
姉貴に言われ確認するとたしかにフリフリのレースで飾られた露出も多そうなミニのメイド服。俺は慌ててその服を床に放り投げた。
「悩み事でもある感じ?」
「………うん」
俺は姉貴にあったことをすべて話した。
今俺は翔吾と付き合ってる。アオイのことは正直恋愛対象として見れない。でもアオイのことは傷つけたくない。
「あんた翔吾くんと付き合ってたの!?いつの間に!?早く教えなさいよ〜!」
「………」
話す相手を完全に間違えたみたいだ。
俺は「もういいよ」とだけ伝え姉貴を部屋から放り出した。
「おはよ♡ケイちゃん♡」
「近い……」
「俺達付き合ってるんだから普通だよ」
「お前の普通どうなってんだよ!こんなの対面座位じゃねえか!」
「ケイちゃん対面座位なんて知ってるんだ〜」
「姉貴のマンが読んで覚えた…てか重いんだよ!!お前何キロあるんだ!!」
「この前測ったときはね〜61キロだった!」
「俺なんて52なんだから差考えろ!」
付き合えたはいいものの…付き合う前より距離は近くなったな…付き合う前でもバグってたくせに……
それに付き合い始めてから学校中の生徒が俺達を見てるような気がする……教室の前にも同学年はもちろん後輩たちも見える。
「あの二人付き合い始めたのかな?」
「じゃない?前より距離近い気がするし」
付き合う前とそれほど変わらないはずなのにわかるものなのか?
しかし……あいつきっぱり見かけなくなったな、LIME送ってもそっけないし……体調でも悪いんだろうか?
「ケイ♡今日ケイのためにカップケーキ作ってきたんだ♡」
「…何入れた?」
「愛情♡」
「きしょ……」
「照れちゃって〜」
「照れてない」
「とか言って食べてるくせに」
「……これは生物だし腐る前に食べてるだけ、それに没収されるかもだし……」
俺が翔吾に隠れて必死にモゴモゴと食べているとそこら中から歓声とカメラのシャッター音が鳴り響く。
「俺ら人気者だね」
「お前が目立ってるだけです〜」
なんせ翔吾は身長180センチ、全国模試3位、スポーツ万能、街中を歩けばアイドルのスカウトが来るとかいう完璧人間なんだし…きっと俺はそんなに目立ってないだろ……
「あの先輩かわいい〜」
「ね、ツンデレたまらん」
……目立ってないと思いたい
放課後
「ケイちゃ〜ん、今度の学園祭一緒に回ろうね」
「わかってるよ……」
学園祭、三年の俺達にとっては一番大きなイベント。
俺達のクラスはお化け屋敷をすることになった。
正直怖い系は苦手だがクラスの大半が賛成したため断りづらかった。
「準備の時めっちゃ怖がってたよね〜ケイちゃん」
「な…!そういうことは大声で言うな!」
「普通だよ〜」
「そういうことじゃない!周りに聞こえるだろ!」
そうは言うも翔吾は相変わらず聞く耳を持たずヘラヘラしてる。
「楽しみだね」
「……そうだな」
「お店潰さないでね〜」
「潰さん!」
流石に潰すくらい食べはしない。俺だってそれくらいは弁えてるしそれだけ食べてれば追い出されるだろう。
そんな茶番?をしている間に一年教室のある四階へ到着した。
「あ、一年生クレープ屋やるんだって〜」
翔吾の指差す方を見ると確かにデカデカとクレープと書かれた看板を作っている一年生が居た。
「……行くか」
「了解!」
そのクレープ屋をやるであろう教室を覗くとそこにはアオイがいた。
友達と話してるみたいだけどなんか楽しくなさそうな感じ……作業が嫌なのかな?
アオイを見つめているとつい目があってしまった。
アオイは一瞬表情が明るくなったがまた暗い表情に戻った。
(まさか俺……嫌われてる……!?)
「………」
(アオイのやつ、まだ引きずってんのか……ありゃダメだな)
俺がショックを受けていると翔吾が教室の方へと歩き出した。
「おい!アオイ!来い!」
翔吾とアオイって知り合いだったのか……でも翔吾が俺以外の人間を呼び出すのは珍しい………
「じゃ、俺アオイと話してくるからケイちゃんは先教室戻ってていいよ」
「え…わかった」
人前で話すのもアレということで俺達は誰も来ない空き教室に入った。
「……ね、アオイ」
「なんですか……」
怖がってんのか?……まぁ無理もないか、俺の呼び出し方も悪かったし
「お前さ、ケイのことほんとに好きなの?」
「え……好きってわけじゃ…」
「嘘つくなって」
アオイがケイに向ける表情は明らかに好意だろう。
さっきもケイと目があって羨ましそうだったし。
「……でもケイ兄は片野先輩と付き合ってるんでしょう?なら諦めますよ……」
ケイ兄……なるほど、ケイが昔話してくれた年下の子がアオイなのか。
高校に入ってからはじめましてでケイ兄なんて言わないだろうしアイツにはお姉さんしか居ない。
「……確かに俺とケイちゃんは付き合ってるよ、三日前から」
「………え?この前は…」
「あの時のは嘘だよ」
「なんで……」
「諦めてほしくなかったから」
「………?????」
多分頭の中はてなでいっぱいなんだろうな……まぁそりゃ意味わからんわ
「簡単に言えばお前の愛はその程度なのかってこと」
「………??」
まだわかってなさそう……簡単ってむずいな
「んー、つまりは相手に恋人が居たらすぐ諦めるのもどうなんだって、確かにショックだろうけどいつまでも引きずって心ここにあらずってなるのもどうなの?楽しくなさそうだったし」
「……でもそれは先輩が…」
「鵜呑みにしちゃダメだろ〜?俺ケイじゃねえんだから本当に好きなら気にしなくていいのよ〜」
「……!」
やっと理解してきたかな?まぁ俺もやりすぎたかもな
「お前ケイ以外に仲良いダチとかおらんの?」
「いえ……居ます……」
「だったらそいつらのことも大事にしてやれよ〜、そもそもそれ目当てで離れさせたんだから」
俺はそう言って優しくアオイの頭を撫でた。
「…すみません、俺が間違ってました」
「謝らなくていいよ、それにケイは一途なだけなら嫌いじゃないけど周りをちゃんと見れない人そんなに好きじゃないからさ」
「……はい」
「ケイのことは俺から奪ってもいいよ〜まぁ簡単には奪わせないけど」
「フフ、じゃあ先輩よりもケイ兄のことメロメロにしてやりますから!」
(ケイ兄がこの人を選んだ理由がわかった気がする……)
最初はただの変な恋敵としか思ってなかったけど……今俺の中では変だけど優しい先輩に変わった
「まぁ頑張れよ〜、あとしょーちゃんでいいよ〜」
「それは……流石に……」
「ガーン……あ、じゃあ今度ニコイチ達とカラオケ行くけど来る?」
「…後輩の俺が行っても迷惑でしょうし」
「大丈夫だよ〜なおっぴ達優しいしアオイならいつも教室前に現れるイケメン一年生って有名だし大歓迎だよ」
「……でも…」
「ケイちゃんも来るよ」
「……考えときます」
「そんじゃ色々ごめんな!LIME交換しようぜ!じゃあな!」
俺はパパっとLIMEの交換を終わらせアオイを連れ一年の教室へと戻った。
「遅かったじゃんアオイ」
「ああ…先輩から説教受けてた」
「ギャハハ!どんまい!」
なんだか翔吾に連れてかれてアオイの表情が変わった気がする。
説教受けてたって聞こえたけどどんなこと話してたんだろうか……
「俺らも放課後だけど居残り作業する?」
「……怖いからやだ」
あの教室……ホラーガチ勢が居たから放課後のチャイムが鳴った瞬間に抜け出してきたってのに戻りたくはない。
暗いところが好きとはいえおばけは別だし……
「かわいいね~」
「うっさい!帰るぞ!」
俺は翔吾の頭をひっぱたいて玄関へと向かう。
階段の手すりに手をかけた瞬間後ろから突然声をかけられた。
振り向くとアオイが立っていた。
「ケイ兄!絶対来てね!」
「え」
俺、嫌われてたんじゃないのか?嫌いな相手に来てっていうもんじゃないだろ……
俺が混乱してるとすかさず翔吾がフォローを入れた。
「アオイはケイのためにクレープ屋しようって提案したんだよね〜?」
「えっ……!」
「ちょ!?なんでそのこと……」
アオイの反応を見る辺り当たってるみたいだ……じゃあ距離置かれてたのは……
「アオイはまだケイのことだ~いすきだもんな」
「うっ……」
アオイの頬が赤く染まる。その時のアオイは昔のまんまでとてもかわいかった。
昔のアオイも褒められたりするとすぐ真っ赤に染めてわかりやすく照れていた。
それを思い出してしまいついアオイの頭へと手を伸ばす。
「お前も変わんないな〜、よしよし」
「ケイちゃん!俺も!」
「はいはい……」
こいつもガキだから撫でないと駄々こねて周りに迷惑がかかる。
「俺もアオイのこと大好きだよ、俺の弟!」
「弟……」
あ…でも恋愛的な好きなんだっけ……弟じゃ嫌か……
「あ、ごめ……」
「めっちゃ嬉しい!」
「…え?」
嬉しい?弟が?
「俺もずっとケイ兄のこと実のお兄ちゃんみたいって思ってたし……でも好きなのは諦めませんから」
「ん、そう?」
俺達が階段で話していると教室の方からアオイを呼ぶ一年生の声がする。
「じゃあまたな」
「…はい!」
「アオイがんば〜!」
「片野先輩には負けませんから!」
そう言い残してアオイは教室へと入っていった。
「じゃあケイちゃん、このままクレープ食べに行く?」
「いいよ」
そして俺達はいつものクレープ屋でいつものクレープを食べてから帰りましたとさ。
学園祭当日
俺達は放課後に居残りしなかった日数が一番多いとしてお客様第一号になってしまった。
とは言っても俺達も生徒として働くので開校前にやるからお客じゃないのかもらしい。
俺と翔吾の反応を見ようと開校前だからか学年関係無しに人が大勢集まってくる。
俺らいつの間にこんな人が集まるようになってたんだ……
野次馬の中にはよく翔吾と駄弁ってるやつも居たから恐らく翔吾の友達が大半だろう……
「では、いってらっしゃーい」
「ええ…心の準備が……」
俺の言葉も虚しく教室に押し込まれてしまった。
教室は真っ暗で不気味なBGMが流れている。
しかもやけに涼しくどこからか泣いている女の子の声も聞こえる。
(ひぃっ……)
一歩でも進めば死ぬ。そんな気がするくらい怖い。
とりあえず腰を抜かしても良いように翔吾の腕に掴まっているけど何歩か進んだところで腕を掴んでいる感覚がなくなった。
「翔吾……?」
俺が必死に手探りで翔吾を探していると……
「うらめしやー!」
「ぴゃーっ!!」
突然後ろから声がして俺はつい叫んでしまった。
「フフッ、ケイちゃんかわいいね」
「クソ野郎……!」
「入ったときから怖くて俺の腕に抱きついてたのだーれだ!」
「うっ…てか外に聞こえるだろ!バレるじゃねえか!」
そういった瞬間カメラのシャッター音のような音が鳴った。
これも演出か…?
「あー、撮られてるから大丈夫!しっかり俺の腕掴んでるところから撮られてるよ!」
翔吾はにこやかにサムズアップをするが何も嬉しくはない。
盗撮だし……
「これは高く売れるぞ!」
「プロマイド班、早速印刷に取りかかれー!」
教室の外からはそんな声が聞こえる。
俺らで商売しないでもらいたい……見世物じゃないんだから……
「進も?あ、怖くて無理?」
人を小馬鹿にしたような言い方はちょっと鼻につくが怖いのは事実……
「……じゃあお前次は絶対離れるなよ」
恥ずかしいが翔吾に掴んでればちょっと安心する……
一時の恥を惜しんで腰が抜けて保健室よりは………
それにアオイとも約束したしな!保健室だけは回避だ!
「いいよ、おいで」
「……教室出るまでな」
教室出たら何事もなかったようにドヤ顔で出てやる。
「いやぁ、全然怖くなかったわ〜」
とか言って驚かせてやる。
翔吾に掴まりながら進むと井戸があった。
(これ多分一枚二枚〜のやつだ!)
そう簡単に引っかかると思うなよ!
鼻を高らかにして井戸の前まで進む。
「一枚…二枚…」
やっぱり!お皿を数えてるおばけだ!
「三枚…四枚…やっぱりいいわ〜、翔慧プロマイド……何枚あっても足りん!」
「……え?」
思ってたのと違う………
「あ!新作!」
そのおばけはどこからかカメラを取り出し連写してくる。
…俺の知ってるお化け屋敷じゃない………
「ケイちゃん!ピース!」
「いやするかよ」
「一枚…二枚…三枚……んー…もうちょっと増やそうかしら」
「…とにかく行こうぜ」
こんなおばけなら怖くないし……
そしてまた何歩か進むと今度は個室トイレのようなものが置いてあった。
(次はトイレの花子さんか……)
無視したらなんとかなるか!と思い無視して進もうとするが翔吾がトイレを三回ノックし「花子さん花子さん、いらっしゃいますか?」と唱える
その問いかけに答えるように扉が徐々に開き「はぁい」という声が聞こえてきた。
「ギャー!!」
俺は思わず翔吾の腕を振りほどき出口へと走る。
「あ!危ないよケイちゃん!」
俺は狭い教室で急に走り出したせいで足元のバケツに足を取られ派手にずっこけ…………なかった…?
目を開くと俺は翔吾の腕の中に居た。
「へ……」
「危ないから俺から離れるなって……自分で言ったくせに……」
「〜〜〜!」
心臓の音がやばい、BGMも気にならないくらいうるさい……
そして翔吾の顔がだんだん近づいてくる……ん?ここでキス!?
「それはやめろ!」
「痛っ!」
思わず頭突して翔吾の顎にぶつかってしまう。
こんなところでキスしたら……みんなに見られて恥ずいし……
「あ~惜っしい!」
クラスメイトがこんなだし……
(とりあえず時間も時間だしとっととここから出るか…)
後何分かはわからないが野次馬が少なくなってるのはなんとなくわかる。階段駆け上がる音とか聞こえたし。
そしてもうすぐ出られる!というところで翔吾の腕を離し俺は出口へと向かってった。
その時だった
「バァーッ」
目の前に急に血まみれの生首が逆さまで現れた。
「がぁっ……」
あまりの衝撃でそこからの記憶はなく気づけば教室を出ていた。
けれどなんだか周りから歓声が……めちゃくちゃカメラで撮られてるし……というか体が浮いて……?
「あ、目醒めた?」
ん?翔吾………!?
今気づいた。俺翔吾にお姫様抱っこされてる……
「降ろせ!」
「えー?でもケイちゃんが固まって動かなかったから運んだんだよ?」
「な〜、でもリアクションはバッチリだったぞ!子供向けに花子さんとかにしたんだけど」
「かわいかったよ〜!」
(……全然嬉しくないんだが)
そんなこんなしてる間に開校のチャイムが鳴り各々駆け足で自分の教室へと戻っていった。
俺達は客呼び。おばけが苦手組は客呼びならと話し合いで決まった……のだが……
「さぁよってらっしゃい!三年二組の名カップル!翔慧のプロマイド発売中だよ!」
「撮りたてホカホカの新作もございます!」
これに客を呼んで良いのだろうか……
お化け屋敷の入場料は無料だがそれじゃあこっちがお化け屋敷に金使っただけで利益が出ないからと売ってるらしいが…
「俺ら商売許可してませんけど!肖像権!」
「え、しょーちゃんがいいよって」
その言葉を聞き翔吾を睨む
「面白そうじゃん」
「あのなぁ…」
「収益だって七割もらえるんだよ〜?」
翔吾は「ほら~」と自慢げに扇のように万札を広げる
「え!?そんなに売れてるのか!?」
「うん、隣のクラスのさいちゃんも買い占めてるみたいだし」
「さいちゃん?」
「いるでしょ?西園寺さん、お金持ちの」
「ああ……」
確かにいるけど……それだけでこんなに売れるのか?ぼったくってるんじゃ……
「てかいつの間にそれを!?」
「あはは〜俺らが放課後サボってる間に売ってたみたい」
売ってたみたいって……それは伝えてたのかよ…
「ケイちゃんは嫌?」
「嫌に決まってんじゃん!」
「えーなんで?」
「なんでって……そりゃ…翔吾と……二人きりの写真ばっかり撮られたら…デートだってままならないし…」
「新作入荷します!!」
「だからそれをやめろって!」
ただプロマイド人気はすごいみたいで俺の教室前には生徒や保護者の列が玄関まで並んでいる。
「今回購入制限で一種類につき一枚までとなります!」
隣を見ればなぜかさっき井戸でプロマイドを数えていた幽霊がメガホンでアナウンスしていた。
「えー」
「見る用保存用携帯用でせめて三枚は買わせろ!」
「………」
これは喜ぶべきなのだろうか……いやでも…うーん……
「ケイじゃん、なにしてんの?」
「は!?クソ姉貴!?大学は!?」
「そんなのサボりよ」
サボってまで来るのか……単位落としても知らねえぞ
「あ、姉さん!」
「姉…さん?」
「あら翔吾くん!元気にしてた?」
「はい!この前風邪引いちゃいましたけどケイちゃんがお見舞いに来てくれたので治りました!」
「いや、お前無理して風邪悪化させてたろ」
それに俺を押し倒して……
「…てか姉さんってなんだよ!」
「え……義姉でしょ」
「義弟じゃない」
(いつから義姉弟になってんだよこの二人………てかなんでそうなるんだよ)
「なんで義姉弟なんだよ!」
「「え…結婚してるでしょ?」」
「した覚えはない!」
二人揃って結婚って…いつしたんだよ……
「てか俺らまだ高校生だから結婚できねえよ!」
((そこなんだ……))
そして数分後……
「プロマイド全種類売り切れです!」
「後半!再販します!」
始まって数十分しか経ってないのに………
残念がる人もいる中、再販まで粘るという人もいる。
その人混みをかいくぐり売り子をしてた男子が俺達に声をかけてきた。
「じゃあ、お前ら二人休憩入っていいぞ」
「え、もういいの?」
「うん、あ!でもこれかけてけよ」
そいつが俺達に渡してきたのは「三年二組名物カップルプロマイド発売中!」と書かれた襷だった。
「は!?誰がかけるか!」
こんな恥ずかしいものかけるはずがない、俺はそいつの前で襷を引きちぎ……引き……
「これ硬ぇ!」
「必死に引きちぎろうとしてんのかわええ…」
「でしょ〜?俺のケイちゃんめっちゃかわいいでしょ!」
「くっ……!」
ぜってぇこいつらも引きちぎってやる……
襷が引きちぎれず諦めた俺は仕方なく床に投げつけるがそれすら「かわいい…」と拝められる。
「行こ♡ケイちゃん♡」
「う…うん」
翔吾は俺に手を差し伸べる。
すべすべで大きくてちょっと冷たい。俺の大好きな手。
「おお!これは……」
「言っとくけどお前らデートは邪魔すんなよ?」
「……え」
翔吾の言葉に俺は思わず驚く。さっきは嬉々として収益報告してたくせに……
「どうしても撮りたいってんなら撮りなよ、盗撮で警察持ってくし」
「でも今までは…」
「今までは…何?それは仕事でしょ?俺ら休憩入るから仕事じゃないの、モデルだってそうじゃんプライベートの写真なんて不祥事でも起こさない限り市場に回らないでしょ?」
「うっ…」
翔吾…怒ってる……俺のため…かはわからん、仕事なのかあれ
でも痛いところを突かれたようでさっきまでの威勢はどこかに行ってしまいそいつらは教室へ戻っていった。
「じゃあアオイのとこ行く?」
「…うん」
「おっけー」
俺は差し伸べられた手を優しく握り、頭を寄せる。
さっきのお礼にでもなればいいけど……
「いいの?みんな見てるけど」
「……やっぱなしで」
「ガーン」
そして四階
「あ!先輩!いらっしゃいませ!」
教室に入った瞬間すごい速度でアオイがこっちへ来た。
水色でかっこいいけど落ち着いていてちょっとかわいさもあるアオイにぴったりなエプロンで羨ましい。
俺が持ってるエプロンなんてドラゴンなのに……
「よ!アオイ!エプロン似合ってんじゃん」
「ありがとうございます、ケイに…藤上先輩はどう思いますか?」
「ん、かっこいいぞ、似合ってる」
俺が褒めるとアオイは翔吾が褒めたときの何億倍も嬉しそうに尻尾を振る。
でも店は思ったより空いている。
俺らの教室のせいか……
「あ!ご注文お伺いします!こちらメニューです!」
「えー…どれにしよ〜」
「あ、俺ちょっとお手洗いに〜」
「私もちょっと先生に聞きたいことが……矢沢くん頑張ってね」
俺がメニューに夢中になっているといつの間にか教室には俺とアオイの二人だけになっていた。
「あれ、みんなは?」
「さぁ…」
「さぁって……」
アオイはなにか聞いてなかったのか…?なんの理由もなしにこれは流石にありえないぞ?
「……あのさ、ケイ兄」
「ん?何?」
もしやこれはアオイがやったのか…?
いやでもリアクション的に違うか……
「ケイ兄と片野先輩と……付き合ってるんだよね……」
「え……」
急に何言い出すのかと思えば……そういえば言ってなかったな……まさかそれで離れられたり!?それだけは嫌だ!
「ごめん!言うの遅かったよな…」
「…いや、いいんだお陰で目が覚めた」
「……え?」
想像もしてなかった言葉に困惑する。
するとアオイがまた少し間をおいて口を開く。
「俺、前に片野先輩から付き合ってるって言われてて、それをずっと引きずってたんです」
「え、いつ!?」
「二ヶ月くらい前?」
ちょうどアオイが来なくなったときだ、でもその時まだ付き合ってないぞ……?
「俺、ケイ兄のこと大好きなのに…すぐ諦めちゃって…片野先輩に喝入れられました」
「ああ、さっき話してたのって」
「はい、あの時に……」
「何言われてたの?喝って」
「……俺、ケイ兄を追いかけすぎて周りを見れてませんでした」
そう言ってアオイは俺の顔へと手を伸ばす。
アオイの手は温かくて心地良い、おひさまみたいだ。
「ケイ兄は俺のこと嫌い?」
「…そんなことない、これからも自慢の大好きな弟だよ」
俺がそう言うとアオイはフフッと微笑んで俺を見つめる。
「いつか片野先輩よりもケイ兄をメロメロにして弟なんて言わせないから覚悟しててね」
「…頑張れ」
兄としてできることは応援するくらいだろう、実の兄弟というわけではないからこそ恋愛だってできる。簡単に突き放すのもあれだし……アオイならほんとに俺を落とそうとしてきそうだからきっと大丈夫
「好きだよ、ケイ兄」
さっきまで俺を見つめていたはずのアオイの顔が近づいてる気が……
「ストッープ!それはダメだろ!」
声のした方を見れば翔吾が猛ダッシュでこちらに向かってきたかと思えば急に俺を抱き寄せる。
「えー、寝取れって言ったの先輩でしょ?」
「い…今は違うだろ」
こんなに焦ってる翔吾初めてだ。
……ん?
「寝取れ…?」
「「あっ」」
俺がそう言った途端二人は気まずそうにそっぽを向く。
まぁ…俺から寝取れたら褒めてやるとでも言われたんだろう……
「あ、もう入っていいよ〜この時間お客さんも増えてくる頃だし」
「「「はーい!」」」
翔吾が合図した途端さっきまでいなかった子たちが一斉に教室へと入ってくる。
ついでにお客さんも……
(ん………?)
ついでに入ってきたお客さんにとても見覚えのある三人がいた。
「おう!ケイ!」
「来たわよ〜」
「父さんに…母さん!?」
いつも仕事で忙しいはずの父さんと母さんが来ている。
なんで……ってきっとクソ姉貴が呼んだんだろうけど
「仕事は?」
「今日は早く終わっちゃったから〜」
「俺も今日は患者さんがみんな元気だったから鷲尾くんに任せて帰ることにしたよ」
「…鷲尾さんに任せてよかったの?」
あの人やるときゃやるけどアホっぽいからなぁ……
「患者さんからも好評だよ、彼は。気さくで話してると不安な気持ちが吹き飛ぶって」
「へぇ~、意外だな」
俺が感心しているとひょいと隣からアオイが顔を出す。
「お、お久しぶりです…」
「「お久しぶり……?」」
ピンと来ていない両親にすかさず姉貴がサポートする
「父さん達覚えてる?昔ケイが庇った子」
「……え!?そうだったの!?」
父さんたちは今思い出したみたいで突然アオイを愛で出す。
「え〜!?あんなに小さかった子が!?」
「こんなに大きくなって!しかもいい男じゃねえか!」
「ありがとうございます」
アオイも最初こそは楽しそうに話してたが父さんと母さんはあまりにも撫でてずっとペラペラ話すので流石に止めた。
「じゃあご注文を」
「俺は山盛りいちごクレープで」
「私もそれ〜」
「母さんは抹茶クレープ」
「じゃあ父さんはカラフルクレープ」
「俺チョコバナナ〜」
「……え?」
さっきまでそのへんうろちょろしてたはずの翔吾がいつの間にか隣に座って一緒に頼んでいた。
それに父さんや母さんは全く気にしてないみたいだけど翔吾のこと知らないはずじゃ……
「ご注文承りました、では少々お待ち下さい」
アオイが隣の教室へ行ったところで姉貴に聞いてみることにした
「…ねぇ、父さん達翔吾のことほぼ知らないよな……授業参観もいつもじいちゃんかばあちゃんだったし」
「ん?ああ、この前あんたがいないとき翔吾くん来たのよ、その時父さんと母さんもついでにって紹介したのよ」
……紹介した?ってことは姉貴の仕業だったのか……
咄嗟に姉貴を睨むが同時にクレープが届いたので今回は許すことにした。
それに俺を気を使ってかは知らないが父さんや母さんは端っこの席に座る俺の反対側に座り外から覗いても顔を見づらくしてくれている。
にしても高校生が作ったとは思えないくらいこのクレープ美味いな……
生地もしっとりしててクリームも甘すぎず食べやすい。いちごやラズベリーの甘酸っぱさとよく合う。
「ケイちゃん美味しい?」
「うん、高校生が作ったとは思えん」
「ね〜、俺のも一口食べる?」
「いいのか!?」
お言葉に甘えて俺は翔吾のチョコバナナも一口かじる。
バナナの甘さとパリパリのチョコとそれにかかるチョコソースもめちゃくちゃ美味しい。
「いやぁ、翔吾くんがケイの婿に来てくれるなんてね〜」
父さんの衝撃発言に思わず吹き出す
「!?」
「いやぁ、お義父さんとお義母さんも来れてよかったですね〜」
「お義父さん!?お義母さん!?」
「そうそう、私のことは義姉さんじゃなくておねーちゃんでいいのよ、翔吾くん」
「はーい!」
「はーい!じゃない!やめろ!まだ結婚してない!」
というかいくらなんでも距離近すぎないか?
会ったとしても一、二回のはずだろう……
「翔吾くんみたいな子なら大歓迎よ」
「そうそう、普通にいい子だしね」
いい子…?身動きも取れないくらい引っ付いてきて対面座位みたいな格好をみんなの前でするようなやつが!?
そんな話をしてる間にクレープを食べ終わって会計。
「じゃあ母さんが払うからみんな後は好きにしていいよ」
「俺も払いますよ〜」
「いやいや、私が払うから」
そして翔吾と姉貴がこちらをちらっと見る。この流れあれやるのか…?でもそれだと俺が払うってこと!?
「父さんにつなげるからあんたもやりなさい」
「あ、そういう……」
それなら大丈夫か…父さんも俺待ちっぽいし……
「いや、ここは俺が…」
俺がそういった途端待ってましたと言わんばかりに父さんが勢いよく
「仕方ないな〜!きょきょは……」
「「「「………」」」」
((((噛んだ……))))
会計係の女子もなんか気まずそう……父さん……
「こ、ここは俺が……」
「「「「…ど、どうぞどうぞ……」」」」
テイク2ってこんなに気まずくなるものなのか……◯チョウ倶楽部も大変だな……
そして前半終了が近づいてきて父さんたちはプロマイドを買いに行くと張り切って階段を降りていった……
「ケイちゃん次どこ行く?」
「…どこでもいいぞ」
「えーどこでもいいのー?」
「……お化け屋敷以外」
「にひひ、りょーかい」
翔吾は俺の手を取り歩き出す。
そんなところで前半終了のチャイムが鳴ってほとんどの教室が閉まってしまう。
「……どうするの?」
「ちょうどいいや…こっち来て」
「……?うん」
ちょうどいいってなんのことだろうか……
俺は翔吾に連れられ校舎裏まで来てしまった。
普段は教師も生徒も誰も使わないのを良いことに不良のたまり場になっている。だからそこら中落書きまみれだ。
「な…なんでここ……」
ちょうど何人か不良もおり、すごく睨まれてる気がする……
翔吾はなんでこんなとこに俺を……
(はっ…!ちょうどいいってまさか…ストレス発散!?)
いやでも流石に翔吾はそんなことしないか、それだったらなんでこんなところに……
そして奥まで来たところで不良たちが一斉にこちらへ来る。
(か、囲まれた…)
逃げ場もないしこのままカツアゲされてボコボコの無一文か……
俺は怖くなって翔吾の後ろに隠れた。
「ご無沙汰しております!兄貴!」
不良たちはそう叫んで90度のお辞儀をした。
「よ!元気してた?」
兄貴って…翔吾のこと!?なんで翔吾が……
「あれ、そちらの方ってもしかして…」
「そう、俺の彼氏」
翔吾はそう言って隠れていた俺を抱きかかえて前へと持ってくる。
「ひっ…!」
「怖がんなくていいんだよ〜ケイちゃん、この子たちいい子だから」
「そうですよ、俺達危害を加えるつもりないんで」
まぁ…嘘っぽくはないかもだけど……
そんなことよりなんで翔吾は兄貴って呼ばれてんだ?
「なぁ、なんでお前兄貴って呼ばれてんだよ」
「ん〜?それはね〜…」
翔吾がそう言いかけて瞬間に後半開始のチャイムが鳴り出入り口のほうが騒がしくなってきた。
「…どうする?聞く?」
(ここまで来たし…それにまぁ混むところは想像できるし……別にいいか)
「聞きたい」
「おっけ〜」
そして翔吾は不良たちの方を見ながら話しだした
「俺ね〜ケイちゃんのために中三の頃から柔道習い始めたの」
「俺のため……」
「そう、ケイちゃんに変な虫がつかないように」
変な虫って……つくほど目立ってない……いや、こいつがいたら目立ってしまうからつきはするのかもしれない、俺が知らないだけでついてたかもしれないし
「そんでね〜師範からも『お前は強い!すごい!』って褒められて二年で黒帯もらったの」
「そうなんだ…」
黒帯がすごいってのはわかるけどどれくらいすごいのかがわからないからピンとこない……
でも俺のために二年以上続けてくれてるんだ……
「それでこいつらは柔道習ってるとこの後輩くん、不良ではあるけど根はいい子だよ」
ちらっと不良たちを見れば褒められ慣れてないのか照れくさそうにしている。
これがギャップ萌えというやつなんだろうか…かわいく思えてきた。
「今もたまにしてるよ〜」
「…俺のために?」
自惚れてるみたいな質問になっちゃった…と思って翔吾を見上げれば優しく微笑んでいた
「そうだよ?俺、ケイちゃんのためにやってるの。重いでしょ」
「……重くない…ゴニョゴニョ…」
「え?なんて?」
俺がゴニョっと呟いたことに食いつかれてしまった……答えないと進めないだろうし仕方ない……答えるか
「………い」
「え?い?」
「……俺の…ためにって…続けてくれてて……嬉しい…」
我ながらに恥ずかしい…穴があったら入りたい……
「もう一回!」
「絶対聞こえてたろ…ほらこいつらだってニマニマしてるし」
俺は奴らの方を指差すが、俺に指摘されて焦ったのか不良?たちは咄嗟に顔を背けて逃げ出した
「あいつら…!」
「もっかい聞かせてよ〜」
「やだ、言わない」
「きーかーせーてー!」
翔吾はおもちゃ屋で駄々こねる子供もびっくりするほどの駄々をこねる………
絶対聞こえてたから言わないけど!
「てかあいつらに紹介しようと持ってたけどいなくなっちゃった」
「と…とにかく俺はもう言わないからな……」
「え〜!」
「え〜じゃない!ふん!」
こっちだって恥ずいんだ、そう何回も言うかよ!
「残念、じゃあこうしちゃお」
そう言って翔吾は俺を引っ張ってきた。
「何しようと…」
俺がそう言いかけた瞬間、唇になにか柔らかいものが触れる感覚がした。
「…!?」
(ここでキス!?誰もいないけど……学校だぞ!?)
必死に振りほどこうとするけど全く刃が立たない。
ただの帰宅部の俺と柔道黒帯の帰宅部なんだからこれくらいの差は当然だ。
でも翔吾は今まで恋人とかいないはずなのに無駄にキスが上手い……
気づけば振りほどこうしていた手も翔吾の手を握って離さなかった。
「んぅっ……」
なんだか力が抜けてきた……
そんなところで唇に当たっていたものも離れて目の前にあった翔吾の顔は俺を見つめていた。
「…ふん……」
「もう一回していい?」
「いいわけ無いだろ…バカ翔吾……場所考えろ…」
「わかった、じゃあ場所考えてからチューするね♡」
「場所変えればいいってもんじゃない!」
ああ、でも俺はやっぱり翔吾が好きだな……
同棲くらいならしてやってもいいかもしれない……
そして俺達は残りの時間を存分に楽しみ気づけば学園祭は終了していた。
「終わっちゃったね」
「…そうだな」
「アオイとも話せた?」
「……うん、翔吾よりも俺をメロメロにさせるって」
「え〜?アオイにできるかな〜?」
「できるんじゃないか?なんせ何年も片思い拗らせてるんだし」
アオイとの関係も戻って翔吾の恋敵の心に火をつけちゃった日だったけど割と充実した日だったかもしれない。
父さんと母さんにも会えたし……
キ…キスも……したし…
アオイがどう落としてくるのかもちょっと気になる。
でも俺にとって翔吾もアオイも大事な家族みたいな存在。これからも二人との関係が続きますように!
『ケイは優しいんだね』
『そんなこと……』
『簡単なことじゃないよ、俺が同じ場面にいたら焦ってみんな燃え尽きちゃうよ』
『お前もお前であれじゃないか?』
『えー普通じゃない?冷静でいられないと思う』
『それはそうかも……』
『でも今度ケイに何かあったら俺が守ってやるからな』
……あの時のセリフも告白だったのかな…その時はただ頼りがいあるな〜くらいに思ってたけど……
でも俺は翔吾のことが好き。アオイを傷つけまいと咄嗟にはぐらかして事なきを得たけど……いつかアオイにもそのことを伝えないとそれこそ傷つけてしまうだろうな……
「アオイも俺追っかける理由わかるし………うーん…」
俺がどうしたもんかと悩んでいると突然部屋の扉をノックされた。
「ケイー、服買ってきたんだけどほしいのあったら貰ってよ」
「うん………」
俺が部屋の扉を開けるとそこには顔が見えないほどの服の山を抱える姉貴が立っていた。
俺はそんなのどうでもいいと思い、適当に選んでベッドへ戻ろうとした。
「……あんた疲れてんじゃない?それメイド服よ?」
「え」
姉貴に言われ確認するとたしかにフリフリのレースで飾られた露出も多そうなミニのメイド服。俺は慌ててその服を床に放り投げた。
「悩み事でもある感じ?」
「………うん」
俺は姉貴にあったことをすべて話した。
今俺は翔吾と付き合ってる。アオイのことは正直恋愛対象として見れない。でもアオイのことは傷つけたくない。
「あんた翔吾くんと付き合ってたの!?いつの間に!?早く教えなさいよ〜!」
「………」
話す相手を完全に間違えたみたいだ。
俺は「もういいよ」とだけ伝え姉貴を部屋から放り出した。
「おはよ♡ケイちゃん♡」
「近い……」
「俺達付き合ってるんだから普通だよ」
「お前の普通どうなってんだよ!こんなの対面座位じゃねえか!」
「ケイちゃん対面座位なんて知ってるんだ〜」
「姉貴のマンが読んで覚えた…てか重いんだよ!!お前何キロあるんだ!!」
「この前測ったときはね〜61キロだった!」
「俺なんて52なんだから差考えろ!」
付き合えたはいいものの…付き合う前より距離は近くなったな…付き合う前でもバグってたくせに……
それに付き合い始めてから学校中の生徒が俺達を見てるような気がする……教室の前にも同学年はもちろん後輩たちも見える。
「あの二人付き合い始めたのかな?」
「じゃない?前より距離近い気がするし」
付き合う前とそれほど変わらないはずなのにわかるものなのか?
しかし……あいつきっぱり見かけなくなったな、LIME送ってもそっけないし……体調でも悪いんだろうか?
「ケイ♡今日ケイのためにカップケーキ作ってきたんだ♡」
「…何入れた?」
「愛情♡」
「きしょ……」
「照れちゃって〜」
「照れてない」
「とか言って食べてるくせに」
「……これは生物だし腐る前に食べてるだけ、それに没収されるかもだし……」
俺が翔吾に隠れて必死にモゴモゴと食べているとそこら中から歓声とカメラのシャッター音が鳴り響く。
「俺ら人気者だね」
「お前が目立ってるだけです〜」
なんせ翔吾は身長180センチ、全国模試3位、スポーツ万能、街中を歩けばアイドルのスカウトが来るとかいう完璧人間なんだし…きっと俺はそんなに目立ってないだろ……
「あの先輩かわいい〜」
「ね、ツンデレたまらん」
……目立ってないと思いたい
放課後
「ケイちゃ〜ん、今度の学園祭一緒に回ろうね」
「わかってるよ……」
学園祭、三年の俺達にとっては一番大きなイベント。
俺達のクラスはお化け屋敷をすることになった。
正直怖い系は苦手だがクラスの大半が賛成したため断りづらかった。
「準備の時めっちゃ怖がってたよね〜ケイちゃん」
「な…!そういうことは大声で言うな!」
「普通だよ〜」
「そういうことじゃない!周りに聞こえるだろ!」
そうは言うも翔吾は相変わらず聞く耳を持たずヘラヘラしてる。
「楽しみだね」
「……そうだな」
「お店潰さないでね〜」
「潰さん!」
流石に潰すくらい食べはしない。俺だってそれくらいは弁えてるしそれだけ食べてれば追い出されるだろう。
そんな茶番?をしている間に一年教室のある四階へ到着した。
「あ、一年生クレープ屋やるんだって〜」
翔吾の指差す方を見ると確かにデカデカとクレープと書かれた看板を作っている一年生が居た。
「……行くか」
「了解!」
そのクレープ屋をやるであろう教室を覗くとそこにはアオイがいた。
友達と話してるみたいだけどなんか楽しくなさそうな感じ……作業が嫌なのかな?
アオイを見つめているとつい目があってしまった。
アオイは一瞬表情が明るくなったがまた暗い表情に戻った。
(まさか俺……嫌われてる……!?)
「………」
(アオイのやつ、まだ引きずってんのか……ありゃダメだな)
俺がショックを受けていると翔吾が教室の方へと歩き出した。
「おい!アオイ!来い!」
翔吾とアオイって知り合いだったのか……でも翔吾が俺以外の人間を呼び出すのは珍しい………
「じゃ、俺アオイと話してくるからケイちゃんは先教室戻ってていいよ」
「え…わかった」
人前で話すのもアレということで俺達は誰も来ない空き教室に入った。
「……ね、アオイ」
「なんですか……」
怖がってんのか?……まぁ無理もないか、俺の呼び出し方も悪かったし
「お前さ、ケイのことほんとに好きなの?」
「え……好きってわけじゃ…」
「嘘つくなって」
アオイがケイに向ける表情は明らかに好意だろう。
さっきもケイと目があって羨ましそうだったし。
「……でもケイ兄は片野先輩と付き合ってるんでしょう?なら諦めますよ……」
ケイ兄……なるほど、ケイが昔話してくれた年下の子がアオイなのか。
高校に入ってからはじめましてでケイ兄なんて言わないだろうしアイツにはお姉さんしか居ない。
「……確かに俺とケイちゃんは付き合ってるよ、三日前から」
「………え?この前は…」
「あの時のは嘘だよ」
「なんで……」
「諦めてほしくなかったから」
「………?????」
多分頭の中はてなでいっぱいなんだろうな……まぁそりゃ意味わからんわ
「簡単に言えばお前の愛はその程度なのかってこと」
「………??」
まだわかってなさそう……簡単ってむずいな
「んー、つまりは相手に恋人が居たらすぐ諦めるのもどうなんだって、確かにショックだろうけどいつまでも引きずって心ここにあらずってなるのもどうなの?楽しくなさそうだったし」
「……でもそれは先輩が…」
「鵜呑みにしちゃダメだろ〜?俺ケイじゃねえんだから本当に好きなら気にしなくていいのよ〜」
「……!」
やっと理解してきたかな?まぁ俺もやりすぎたかもな
「お前ケイ以外に仲良いダチとかおらんの?」
「いえ……居ます……」
「だったらそいつらのことも大事にしてやれよ〜、そもそもそれ目当てで離れさせたんだから」
俺はそう言って優しくアオイの頭を撫でた。
「…すみません、俺が間違ってました」
「謝らなくていいよ、それにケイは一途なだけなら嫌いじゃないけど周りをちゃんと見れない人そんなに好きじゃないからさ」
「……はい」
「ケイのことは俺から奪ってもいいよ〜まぁ簡単には奪わせないけど」
「フフ、じゃあ先輩よりもケイ兄のことメロメロにしてやりますから!」
(ケイ兄がこの人を選んだ理由がわかった気がする……)
最初はただの変な恋敵としか思ってなかったけど……今俺の中では変だけど優しい先輩に変わった
「まぁ頑張れよ〜、あとしょーちゃんでいいよ〜」
「それは……流石に……」
「ガーン……あ、じゃあ今度ニコイチ達とカラオケ行くけど来る?」
「…後輩の俺が行っても迷惑でしょうし」
「大丈夫だよ〜なおっぴ達優しいしアオイならいつも教室前に現れるイケメン一年生って有名だし大歓迎だよ」
「……でも…」
「ケイちゃんも来るよ」
「……考えときます」
「そんじゃ色々ごめんな!LIME交換しようぜ!じゃあな!」
俺はパパっとLIMEの交換を終わらせアオイを連れ一年の教室へと戻った。
「遅かったじゃんアオイ」
「ああ…先輩から説教受けてた」
「ギャハハ!どんまい!」
なんだか翔吾に連れてかれてアオイの表情が変わった気がする。
説教受けてたって聞こえたけどどんなこと話してたんだろうか……
「俺らも放課後だけど居残り作業する?」
「……怖いからやだ」
あの教室……ホラーガチ勢が居たから放課後のチャイムが鳴った瞬間に抜け出してきたってのに戻りたくはない。
暗いところが好きとはいえおばけは別だし……
「かわいいね~」
「うっさい!帰るぞ!」
俺は翔吾の頭をひっぱたいて玄関へと向かう。
階段の手すりに手をかけた瞬間後ろから突然声をかけられた。
振り向くとアオイが立っていた。
「ケイ兄!絶対来てね!」
「え」
俺、嫌われてたんじゃないのか?嫌いな相手に来てっていうもんじゃないだろ……
俺が混乱してるとすかさず翔吾がフォローを入れた。
「アオイはケイのためにクレープ屋しようって提案したんだよね〜?」
「えっ……!」
「ちょ!?なんでそのこと……」
アオイの反応を見る辺り当たってるみたいだ……じゃあ距離置かれてたのは……
「アオイはまだケイのことだ~いすきだもんな」
「うっ……」
アオイの頬が赤く染まる。その時のアオイは昔のまんまでとてもかわいかった。
昔のアオイも褒められたりするとすぐ真っ赤に染めてわかりやすく照れていた。
それを思い出してしまいついアオイの頭へと手を伸ばす。
「お前も変わんないな〜、よしよし」
「ケイちゃん!俺も!」
「はいはい……」
こいつもガキだから撫でないと駄々こねて周りに迷惑がかかる。
「俺もアオイのこと大好きだよ、俺の弟!」
「弟……」
あ…でも恋愛的な好きなんだっけ……弟じゃ嫌か……
「あ、ごめ……」
「めっちゃ嬉しい!」
「…え?」
嬉しい?弟が?
「俺もずっとケイ兄のこと実のお兄ちゃんみたいって思ってたし……でも好きなのは諦めませんから」
「ん、そう?」
俺達が階段で話していると教室の方からアオイを呼ぶ一年生の声がする。
「じゃあまたな」
「…はい!」
「アオイがんば〜!」
「片野先輩には負けませんから!」
そう言い残してアオイは教室へと入っていった。
「じゃあケイちゃん、このままクレープ食べに行く?」
「いいよ」
そして俺達はいつものクレープ屋でいつものクレープを食べてから帰りましたとさ。
学園祭当日
俺達は放課後に居残りしなかった日数が一番多いとしてお客様第一号になってしまった。
とは言っても俺達も生徒として働くので開校前にやるからお客じゃないのかもらしい。
俺と翔吾の反応を見ようと開校前だからか学年関係無しに人が大勢集まってくる。
俺らいつの間にこんな人が集まるようになってたんだ……
野次馬の中にはよく翔吾と駄弁ってるやつも居たから恐らく翔吾の友達が大半だろう……
「では、いってらっしゃーい」
「ええ…心の準備が……」
俺の言葉も虚しく教室に押し込まれてしまった。
教室は真っ暗で不気味なBGMが流れている。
しかもやけに涼しくどこからか泣いている女の子の声も聞こえる。
(ひぃっ……)
一歩でも進めば死ぬ。そんな気がするくらい怖い。
とりあえず腰を抜かしても良いように翔吾の腕に掴まっているけど何歩か進んだところで腕を掴んでいる感覚がなくなった。
「翔吾……?」
俺が必死に手探りで翔吾を探していると……
「うらめしやー!」
「ぴゃーっ!!」
突然後ろから声がして俺はつい叫んでしまった。
「フフッ、ケイちゃんかわいいね」
「クソ野郎……!」
「入ったときから怖くて俺の腕に抱きついてたのだーれだ!」
「うっ…てか外に聞こえるだろ!バレるじゃねえか!」
そういった瞬間カメラのシャッター音のような音が鳴った。
これも演出か…?
「あー、撮られてるから大丈夫!しっかり俺の腕掴んでるところから撮られてるよ!」
翔吾はにこやかにサムズアップをするが何も嬉しくはない。
盗撮だし……
「これは高く売れるぞ!」
「プロマイド班、早速印刷に取りかかれー!」
教室の外からはそんな声が聞こえる。
俺らで商売しないでもらいたい……見世物じゃないんだから……
「進も?あ、怖くて無理?」
人を小馬鹿にしたような言い方はちょっと鼻につくが怖いのは事実……
「……じゃあお前次は絶対離れるなよ」
恥ずかしいが翔吾に掴んでればちょっと安心する……
一時の恥を惜しんで腰が抜けて保健室よりは………
それにアオイとも約束したしな!保健室だけは回避だ!
「いいよ、おいで」
「……教室出るまでな」
教室出たら何事もなかったようにドヤ顔で出てやる。
「いやぁ、全然怖くなかったわ〜」
とか言って驚かせてやる。
翔吾に掴まりながら進むと井戸があった。
(これ多分一枚二枚〜のやつだ!)
そう簡単に引っかかると思うなよ!
鼻を高らかにして井戸の前まで進む。
「一枚…二枚…」
やっぱり!お皿を数えてるおばけだ!
「三枚…四枚…やっぱりいいわ〜、翔慧プロマイド……何枚あっても足りん!」
「……え?」
思ってたのと違う………
「あ!新作!」
そのおばけはどこからかカメラを取り出し連写してくる。
…俺の知ってるお化け屋敷じゃない………
「ケイちゃん!ピース!」
「いやするかよ」
「一枚…二枚…三枚……んー…もうちょっと増やそうかしら」
「…とにかく行こうぜ」
こんなおばけなら怖くないし……
そしてまた何歩か進むと今度は個室トイレのようなものが置いてあった。
(次はトイレの花子さんか……)
無視したらなんとかなるか!と思い無視して進もうとするが翔吾がトイレを三回ノックし「花子さん花子さん、いらっしゃいますか?」と唱える
その問いかけに答えるように扉が徐々に開き「はぁい」という声が聞こえてきた。
「ギャー!!」
俺は思わず翔吾の腕を振りほどき出口へと走る。
「あ!危ないよケイちゃん!」
俺は狭い教室で急に走り出したせいで足元のバケツに足を取られ派手にずっこけ…………なかった…?
目を開くと俺は翔吾の腕の中に居た。
「へ……」
「危ないから俺から離れるなって……自分で言ったくせに……」
「〜〜〜!」
心臓の音がやばい、BGMも気にならないくらいうるさい……
そして翔吾の顔がだんだん近づいてくる……ん?ここでキス!?
「それはやめろ!」
「痛っ!」
思わず頭突して翔吾の顎にぶつかってしまう。
こんなところでキスしたら……みんなに見られて恥ずいし……
「あ~惜っしい!」
クラスメイトがこんなだし……
(とりあえず時間も時間だしとっととここから出るか…)
後何分かはわからないが野次馬が少なくなってるのはなんとなくわかる。階段駆け上がる音とか聞こえたし。
そしてもうすぐ出られる!というところで翔吾の腕を離し俺は出口へと向かってった。
その時だった
「バァーッ」
目の前に急に血まみれの生首が逆さまで現れた。
「がぁっ……」
あまりの衝撃でそこからの記憶はなく気づけば教室を出ていた。
けれどなんだか周りから歓声が……めちゃくちゃカメラで撮られてるし……というか体が浮いて……?
「あ、目醒めた?」
ん?翔吾………!?
今気づいた。俺翔吾にお姫様抱っこされてる……
「降ろせ!」
「えー?でもケイちゃんが固まって動かなかったから運んだんだよ?」
「な〜、でもリアクションはバッチリだったぞ!子供向けに花子さんとかにしたんだけど」
「かわいかったよ〜!」
(……全然嬉しくないんだが)
そんなこんなしてる間に開校のチャイムが鳴り各々駆け足で自分の教室へと戻っていった。
俺達は客呼び。おばけが苦手組は客呼びならと話し合いで決まった……のだが……
「さぁよってらっしゃい!三年二組の名カップル!翔慧のプロマイド発売中だよ!」
「撮りたてホカホカの新作もございます!」
これに客を呼んで良いのだろうか……
お化け屋敷の入場料は無料だがそれじゃあこっちがお化け屋敷に金使っただけで利益が出ないからと売ってるらしいが…
「俺ら商売許可してませんけど!肖像権!」
「え、しょーちゃんがいいよって」
その言葉を聞き翔吾を睨む
「面白そうじゃん」
「あのなぁ…」
「収益だって七割もらえるんだよ〜?」
翔吾は「ほら~」と自慢げに扇のように万札を広げる
「え!?そんなに売れてるのか!?」
「うん、隣のクラスのさいちゃんも買い占めてるみたいだし」
「さいちゃん?」
「いるでしょ?西園寺さん、お金持ちの」
「ああ……」
確かにいるけど……それだけでこんなに売れるのか?ぼったくってるんじゃ……
「てかいつの間にそれを!?」
「あはは〜俺らが放課後サボってる間に売ってたみたい」
売ってたみたいって……それは伝えてたのかよ…
「ケイちゃんは嫌?」
「嫌に決まってんじゃん!」
「えーなんで?」
「なんでって……そりゃ…翔吾と……二人きりの写真ばっかり撮られたら…デートだってままならないし…」
「新作入荷します!!」
「だからそれをやめろって!」
ただプロマイド人気はすごいみたいで俺の教室前には生徒や保護者の列が玄関まで並んでいる。
「今回購入制限で一種類につき一枚までとなります!」
隣を見ればなぜかさっき井戸でプロマイドを数えていた幽霊がメガホンでアナウンスしていた。
「えー」
「見る用保存用携帯用でせめて三枚は買わせろ!」
「………」
これは喜ぶべきなのだろうか……いやでも…うーん……
「ケイじゃん、なにしてんの?」
「は!?クソ姉貴!?大学は!?」
「そんなのサボりよ」
サボってまで来るのか……単位落としても知らねえぞ
「あ、姉さん!」
「姉…さん?」
「あら翔吾くん!元気にしてた?」
「はい!この前風邪引いちゃいましたけどケイちゃんがお見舞いに来てくれたので治りました!」
「いや、お前無理して風邪悪化させてたろ」
それに俺を押し倒して……
「…てか姉さんってなんだよ!」
「え……義姉でしょ」
「義弟じゃない」
(いつから義姉弟になってんだよこの二人………てかなんでそうなるんだよ)
「なんで義姉弟なんだよ!」
「「え…結婚してるでしょ?」」
「した覚えはない!」
二人揃って結婚って…いつしたんだよ……
「てか俺らまだ高校生だから結婚できねえよ!」
((そこなんだ……))
そして数分後……
「プロマイド全種類売り切れです!」
「後半!再販します!」
始まって数十分しか経ってないのに………
残念がる人もいる中、再販まで粘るという人もいる。
その人混みをかいくぐり売り子をしてた男子が俺達に声をかけてきた。
「じゃあ、お前ら二人休憩入っていいぞ」
「え、もういいの?」
「うん、あ!でもこれかけてけよ」
そいつが俺達に渡してきたのは「三年二組名物カップルプロマイド発売中!」と書かれた襷だった。
「は!?誰がかけるか!」
こんな恥ずかしいものかけるはずがない、俺はそいつの前で襷を引きちぎ……引き……
「これ硬ぇ!」
「必死に引きちぎろうとしてんのかわええ…」
「でしょ〜?俺のケイちゃんめっちゃかわいいでしょ!」
「くっ……!」
ぜってぇこいつらも引きちぎってやる……
襷が引きちぎれず諦めた俺は仕方なく床に投げつけるがそれすら「かわいい…」と拝められる。
「行こ♡ケイちゃん♡」
「う…うん」
翔吾は俺に手を差し伸べる。
すべすべで大きくてちょっと冷たい。俺の大好きな手。
「おお!これは……」
「言っとくけどお前らデートは邪魔すんなよ?」
「……え」
翔吾の言葉に俺は思わず驚く。さっきは嬉々として収益報告してたくせに……
「どうしても撮りたいってんなら撮りなよ、盗撮で警察持ってくし」
「でも今までは…」
「今までは…何?それは仕事でしょ?俺ら休憩入るから仕事じゃないの、モデルだってそうじゃんプライベートの写真なんて不祥事でも起こさない限り市場に回らないでしょ?」
「うっ…」
翔吾…怒ってる……俺のため…かはわからん、仕事なのかあれ
でも痛いところを突かれたようでさっきまでの威勢はどこかに行ってしまいそいつらは教室へ戻っていった。
「じゃあアオイのとこ行く?」
「…うん」
「おっけー」
俺は差し伸べられた手を優しく握り、頭を寄せる。
さっきのお礼にでもなればいいけど……
「いいの?みんな見てるけど」
「……やっぱなしで」
「ガーン」
そして四階
「あ!先輩!いらっしゃいませ!」
教室に入った瞬間すごい速度でアオイがこっちへ来た。
水色でかっこいいけど落ち着いていてちょっとかわいさもあるアオイにぴったりなエプロンで羨ましい。
俺が持ってるエプロンなんてドラゴンなのに……
「よ!アオイ!エプロン似合ってんじゃん」
「ありがとうございます、ケイに…藤上先輩はどう思いますか?」
「ん、かっこいいぞ、似合ってる」
俺が褒めるとアオイは翔吾が褒めたときの何億倍も嬉しそうに尻尾を振る。
でも店は思ったより空いている。
俺らの教室のせいか……
「あ!ご注文お伺いします!こちらメニューです!」
「えー…どれにしよ〜」
「あ、俺ちょっとお手洗いに〜」
「私もちょっと先生に聞きたいことが……矢沢くん頑張ってね」
俺がメニューに夢中になっているといつの間にか教室には俺とアオイの二人だけになっていた。
「あれ、みんなは?」
「さぁ…」
「さぁって……」
アオイはなにか聞いてなかったのか…?なんの理由もなしにこれは流石にありえないぞ?
「……あのさ、ケイ兄」
「ん?何?」
もしやこれはアオイがやったのか…?
いやでもリアクション的に違うか……
「ケイ兄と片野先輩と……付き合ってるんだよね……」
「え……」
急に何言い出すのかと思えば……そういえば言ってなかったな……まさかそれで離れられたり!?それだけは嫌だ!
「ごめん!言うの遅かったよな…」
「…いや、いいんだお陰で目が覚めた」
「……え?」
想像もしてなかった言葉に困惑する。
するとアオイがまた少し間をおいて口を開く。
「俺、前に片野先輩から付き合ってるって言われてて、それをずっと引きずってたんです」
「え、いつ!?」
「二ヶ月くらい前?」
ちょうどアオイが来なくなったときだ、でもその時まだ付き合ってないぞ……?
「俺、ケイ兄のこと大好きなのに…すぐ諦めちゃって…片野先輩に喝入れられました」
「ああ、さっき話してたのって」
「はい、あの時に……」
「何言われてたの?喝って」
「……俺、ケイ兄を追いかけすぎて周りを見れてませんでした」
そう言ってアオイは俺の顔へと手を伸ばす。
アオイの手は温かくて心地良い、おひさまみたいだ。
「ケイ兄は俺のこと嫌い?」
「…そんなことない、これからも自慢の大好きな弟だよ」
俺がそう言うとアオイはフフッと微笑んで俺を見つめる。
「いつか片野先輩よりもケイ兄をメロメロにして弟なんて言わせないから覚悟しててね」
「…頑張れ」
兄としてできることは応援するくらいだろう、実の兄弟というわけではないからこそ恋愛だってできる。簡単に突き放すのもあれだし……アオイならほんとに俺を落とそうとしてきそうだからきっと大丈夫
「好きだよ、ケイ兄」
さっきまで俺を見つめていたはずのアオイの顔が近づいてる気が……
「ストッープ!それはダメだろ!」
声のした方を見れば翔吾が猛ダッシュでこちらに向かってきたかと思えば急に俺を抱き寄せる。
「えー、寝取れって言ったの先輩でしょ?」
「い…今は違うだろ」
こんなに焦ってる翔吾初めてだ。
……ん?
「寝取れ…?」
「「あっ」」
俺がそう言った途端二人は気まずそうにそっぽを向く。
まぁ…俺から寝取れたら褒めてやるとでも言われたんだろう……
「あ、もう入っていいよ〜この時間お客さんも増えてくる頃だし」
「「「はーい!」」」
翔吾が合図した途端さっきまでいなかった子たちが一斉に教室へと入ってくる。
ついでにお客さんも……
(ん………?)
ついでに入ってきたお客さんにとても見覚えのある三人がいた。
「おう!ケイ!」
「来たわよ〜」
「父さんに…母さん!?」
いつも仕事で忙しいはずの父さんと母さんが来ている。
なんで……ってきっとクソ姉貴が呼んだんだろうけど
「仕事は?」
「今日は早く終わっちゃったから〜」
「俺も今日は患者さんがみんな元気だったから鷲尾くんに任せて帰ることにしたよ」
「…鷲尾さんに任せてよかったの?」
あの人やるときゃやるけどアホっぽいからなぁ……
「患者さんからも好評だよ、彼は。気さくで話してると不安な気持ちが吹き飛ぶって」
「へぇ~、意外だな」
俺が感心しているとひょいと隣からアオイが顔を出す。
「お、お久しぶりです…」
「「お久しぶり……?」」
ピンと来ていない両親にすかさず姉貴がサポートする
「父さん達覚えてる?昔ケイが庇った子」
「……え!?そうだったの!?」
父さんたちは今思い出したみたいで突然アオイを愛で出す。
「え〜!?あんなに小さかった子が!?」
「こんなに大きくなって!しかもいい男じゃねえか!」
「ありがとうございます」
アオイも最初こそは楽しそうに話してたが父さんと母さんはあまりにも撫でてずっとペラペラ話すので流石に止めた。
「じゃあご注文を」
「俺は山盛りいちごクレープで」
「私もそれ〜」
「母さんは抹茶クレープ」
「じゃあ父さんはカラフルクレープ」
「俺チョコバナナ〜」
「……え?」
さっきまでそのへんうろちょろしてたはずの翔吾がいつの間にか隣に座って一緒に頼んでいた。
それに父さんや母さんは全く気にしてないみたいだけど翔吾のこと知らないはずじゃ……
「ご注文承りました、では少々お待ち下さい」
アオイが隣の教室へ行ったところで姉貴に聞いてみることにした
「…ねぇ、父さん達翔吾のことほぼ知らないよな……授業参観もいつもじいちゃんかばあちゃんだったし」
「ん?ああ、この前あんたがいないとき翔吾くん来たのよ、その時父さんと母さんもついでにって紹介したのよ」
……紹介した?ってことは姉貴の仕業だったのか……
咄嗟に姉貴を睨むが同時にクレープが届いたので今回は許すことにした。
それに俺を気を使ってかは知らないが父さんや母さんは端っこの席に座る俺の反対側に座り外から覗いても顔を見づらくしてくれている。
にしても高校生が作ったとは思えないくらいこのクレープ美味いな……
生地もしっとりしててクリームも甘すぎず食べやすい。いちごやラズベリーの甘酸っぱさとよく合う。
「ケイちゃん美味しい?」
「うん、高校生が作ったとは思えん」
「ね〜、俺のも一口食べる?」
「いいのか!?」
お言葉に甘えて俺は翔吾のチョコバナナも一口かじる。
バナナの甘さとパリパリのチョコとそれにかかるチョコソースもめちゃくちゃ美味しい。
「いやぁ、翔吾くんがケイの婿に来てくれるなんてね〜」
父さんの衝撃発言に思わず吹き出す
「!?」
「いやぁ、お義父さんとお義母さんも来れてよかったですね〜」
「お義父さん!?お義母さん!?」
「そうそう、私のことは義姉さんじゃなくておねーちゃんでいいのよ、翔吾くん」
「はーい!」
「はーい!じゃない!やめろ!まだ結婚してない!」
というかいくらなんでも距離近すぎないか?
会ったとしても一、二回のはずだろう……
「翔吾くんみたいな子なら大歓迎よ」
「そうそう、普通にいい子だしね」
いい子…?身動きも取れないくらい引っ付いてきて対面座位みたいな格好をみんなの前でするようなやつが!?
そんな話をしてる間にクレープを食べ終わって会計。
「じゃあ母さんが払うからみんな後は好きにしていいよ」
「俺も払いますよ〜」
「いやいや、私が払うから」
そして翔吾と姉貴がこちらをちらっと見る。この流れあれやるのか…?でもそれだと俺が払うってこと!?
「父さんにつなげるからあんたもやりなさい」
「あ、そういう……」
それなら大丈夫か…父さんも俺待ちっぽいし……
「いや、ここは俺が…」
俺がそういった途端待ってましたと言わんばかりに父さんが勢いよく
「仕方ないな〜!きょきょは……」
「「「「………」」」」
((((噛んだ……))))
会計係の女子もなんか気まずそう……父さん……
「こ、ここは俺が……」
「「「「…ど、どうぞどうぞ……」」」」
テイク2ってこんなに気まずくなるものなのか……◯チョウ倶楽部も大変だな……
そして前半終了が近づいてきて父さんたちはプロマイドを買いに行くと張り切って階段を降りていった……
「ケイちゃん次どこ行く?」
「…どこでもいいぞ」
「えーどこでもいいのー?」
「……お化け屋敷以外」
「にひひ、りょーかい」
翔吾は俺の手を取り歩き出す。
そんなところで前半終了のチャイムが鳴ってほとんどの教室が閉まってしまう。
「……どうするの?」
「ちょうどいいや…こっち来て」
「……?うん」
ちょうどいいってなんのことだろうか……
俺は翔吾に連れられ校舎裏まで来てしまった。
普段は教師も生徒も誰も使わないのを良いことに不良のたまり場になっている。だからそこら中落書きまみれだ。
「な…なんでここ……」
ちょうど何人か不良もおり、すごく睨まれてる気がする……
翔吾はなんでこんなとこに俺を……
(はっ…!ちょうどいいってまさか…ストレス発散!?)
いやでも流石に翔吾はそんなことしないか、それだったらなんでこんなところに……
そして奥まで来たところで不良たちが一斉にこちらへ来る。
(か、囲まれた…)
逃げ場もないしこのままカツアゲされてボコボコの無一文か……
俺は怖くなって翔吾の後ろに隠れた。
「ご無沙汰しております!兄貴!」
不良たちはそう叫んで90度のお辞儀をした。
「よ!元気してた?」
兄貴って…翔吾のこと!?なんで翔吾が……
「あれ、そちらの方ってもしかして…」
「そう、俺の彼氏」
翔吾はそう言って隠れていた俺を抱きかかえて前へと持ってくる。
「ひっ…!」
「怖がんなくていいんだよ〜ケイちゃん、この子たちいい子だから」
「そうですよ、俺達危害を加えるつもりないんで」
まぁ…嘘っぽくはないかもだけど……
そんなことよりなんで翔吾は兄貴って呼ばれてんだ?
「なぁ、なんでお前兄貴って呼ばれてんだよ」
「ん〜?それはね〜…」
翔吾がそう言いかけて瞬間に後半開始のチャイムが鳴り出入り口のほうが騒がしくなってきた。
「…どうする?聞く?」
(ここまで来たし…それにまぁ混むところは想像できるし……別にいいか)
「聞きたい」
「おっけ〜」
そして翔吾は不良たちの方を見ながら話しだした
「俺ね〜ケイちゃんのために中三の頃から柔道習い始めたの」
「俺のため……」
「そう、ケイちゃんに変な虫がつかないように」
変な虫って……つくほど目立ってない……いや、こいつがいたら目立ってしまうからつきはするのかもしれない、俺が知らないだけでついてたかもしれないし
「そんでね〜師範からも『お前は強い!すごい!』って褒められて二年で黒帯もらったの」
「そうなんだ…」
黒帯がすごいってのはわかるけどどれくらいすごいのかがわからないからピンとこない……
でも俺のために二年以上続けてくれてるんだ……
「それでこいつらは柔道習ってるとこの後輩くん、不良ではあるけど根はいい子だよ」
ちらっと不良たちを見れば褒められ慣れてないのか照れくさそうにしている。
これがギャップ萌えというやつなんだろうか…かわいく思えてきた。
「今もたまにしてるよ〜」
「…俺のために?」
自惚れてるみたいな質問になっちゃった…と思って翔吾を見上げれば優しく微笑んでいた
「そうだよ?俺、ケイちゃんのためにやってるの。重いでしょ」
「……重くない…ゴニョゴニョ…」
「え?なんて?」
俺がゴニョっと呟いたことに食いつかれてしまった……答えないと進めないだろうし仕方ない……答えるか
「………い」
「え?い?」
「……俺の…ためにって…続けてくれてて……嬉しい…」
我ながらに恥ずかしい…穴があったら入りたい……
「もう一回!」
「絶対聞こえてたろ…ほらこいつらだってニマニマしてるし」
俺は奴らの方を指差すが、俺に指摘されて焦ったのか不良?たちは咄嗟に顔を背けて逃げ出した
「あいつら…!」
「もっかい聞かせてよ〜」
「やだ、言わない」
「きーかーせーてー!」
翔吾はおもちゃ屋で駄々こねる子供もびっくりするほどの駄々をこねる………
絶対聞こえてたから言わないけど!
「てかあいつらに紹介しようと持ってたけどいなくなっちゃった」
「と…とにかく俺はもう言わないからな……」
「え〜!」
「え〜じゃない!ふん!」
こっちだって恥ずいんだ、そう何回も言うかよ!
「残念、じゃあこうしちゃお」
そう言って翔吾は俺を引っ張ってきた。
「何しようと…」
俺がそう言いかけた瞬間、唇になにか柔らかいものが触れる感覚がした。
「…!?」
(ここでキス!?誰もいないけど……学校だぞ!?)
必死に振りほどこうとするけど全く刃が立たない。
ただの帰宅部の俺と柔道黒帯の帰宅部なんだからこれくらいの差は当然だ。
でも翔吾は今まで恋人とかいないはずなのに無駄にキスが上手い……
気づけば振りほどこうしていた手も翔吾の手を握って離さなかった。
「んぅっ……」
なんだか力が抜けてきた……
そんなところで唇に当たっていたものも離れて目の前にあった翔吾の顔は俺を見つめていた。
「…ふん……」
「もう一回していい?」
「いいわけ無いだろ…バカ翔吾……場所考えろ…」
「わかった、じゃあ場所考えてからチューするね♡」
「場所変えればいいってもんじゃない!」
ああ、でも俺はやっぱり翔吾が好きだな……
同棲くらいならしてやってもいいかもしれない……
そして俺達は残りの時間を存分に楽しみ気づけば学園祭は終了していた。
「終わっちゃったね」
「…そうだな」
「アオイとも話せた?」
「……うん、翔吾よりも俺をメロメロにさせるって」
「え〜?アオイにできるかな〜?」
「できるんじゃないか?なんせ何年も片思い拗らせてるんだし」
アオイとの関係も戻って翔吾の恋敵の心に火をつけちゃった日だったけど割と充実した日だったかもしれない。
父さんと母さんにも会えたし……
キ…キスも……したし…
アオイがどう落としてくるのかもちょっと気になる。
でも俺にとって翔吾もアオイも大事な家族みたいな存在。これからも二人との関係が続きますように!


