今日は翔吾が風邪で休みらしく、LIMEには泣いているねこかわのキャラが泣いているスタンプでいっぱいだ。
 授業中には送ってきてないから怒ろうにも怒れない……
 (今日は一人か……)
 翔吾と仲良くなってからいつも登下校が一緒だったから急に一人になるとなんかちょっとさみしいな……
 ……いや、あいつがいるか
 「先輩!帰りましょう!」
 「…はいはい」
 俺がオッケーを出すと思っていなかったのかアオイは今までにないくらい目を明るく輝かせていた。
 「え、いいんですか!?」
 「……まぁ、今日はな」
 「ありがとうございます!!」
 とりあえずこいつと帰ってから翔吾のお見舞い行ってやろう。
 
 「先輩、この後って暇ですか?」
 「んーどうだろ、暇じゃないかも」
 (翔吾のとこ行かないとめんどくさそうだし……)
 『ケイちゃんのバカー!寂しかったー!』とか言ってきそう……
 「あ…そうですか……」
 ……?なにか言いたげみたいだけど……… 
 「何か俺に用でもあった?」
 「いえ、また今度」
 また今度って……こっちが気になるんですけど……
 「今でいいよ、次がいつになるかわかんないし、気になるし」
 「…長くなりそうなのでじゃあ明日にでも……」
 こいつ思ったより謙虚なのか?
 気になるって言ってるんだから言ってくれてもいいんだけどな……
 「あ、じゃあLIME交換する?」
 「良いんですか!?」
 さっきまで萎れた大型犬みたいだったアオイは急に元気を取り戻したかのように表情を明るくして尻尾をブンブン振り回しながらこちらに近づいてくる。
 「良いんですか!?」
 「え、良いけど……」
 俺はそう言ってノートの切れ端にLIMEのIDを書いて翔吾に渡した
 「やった!」
 「俺こっちだけどお前は?」
 「あ、あっちです」
 「そっか、じゃあな」
 そして別れようとした時、アオイに呼び止められた
 「あの…!」
 「ん?どした?」
 「ええと……いや……やっぱ…」
 「?」
 なにか言ってるみたいだけど聞き取れない……
 俺が戸惑っていると察したのかモニョモニョしながら口を開いた。
 「その……また明日!」
 「…?おう?」
 なんだ?そんなことで悩むのか?
 なにか別の理由があるとしか……
 そう思っていたらいつの間にかアオイは消えLIMEには翔吾から『早く来てくれないと死ぬ』というメッセージが送られていた。

 先輩と別れた帰り道、俺は嬉しいようなさみしいような気持ちになっていた
 (ケイ兄、俺のこと忘れてそうだな……)
 やっと…会えたのに……

 俺はコンビニでポカリと翔吾の好きなプリンを買って翔吾の家へと向かった。
 ……ついでに俺のも買ったのは内緒だけど
 先に食ったしバレないだろ
 そして翔吾の家のチャイムを鳴らす
 ピンポーンという音がなったかと思えば一瞬で扉が開いた。
 「ケイちゃん!!待ってたよ!!」
 「……元気そうだな、これやるから…またな」
 「ちょいちょいちょーい!!」
 「……大声で『待ってたよ!!』とか言わねえだろ病人が」
 「うぅ……」
 図星か……じゃあこのまま帰ろう……
 とりあえずお大事にくらいは言わないと失礼だしと思い振り返ると今にも倒れそうなくらいふらふらな翔吾が泡を吹いていた
 「うわっ、危ない!!」
 俺は咄嗟に翔吾を支えに行くが俺と違ってでかい体を支えるのは非力な俺には難しく押し倒される形になってしまった。
 「……ケイちゃん…」
 「な…何…?」
 「俺のケイちゃん……」
 翔吾は熱でやられてるのかいつもより積極的だ……
 それに俺が倒されそうに鳴った途端自分の手を俺の頭の後ろへ伸ばしていたから手をおもいきいりぶつけて地味に痛いみたいだ。
 でもそのおかげで俺は大した怪我はしなかった。
 「怪我してない?」
 「う、うん……」
 これくらいはいつも慣れてるし……大丈夫………
 「結婚しよ」
 「は!?何言って……!」
 この前の告白だってオッケーした覚えはないぞ!?気が早すぎるだろ!
 それにこいつが言ったら本気にしか聞こえない………
 というか重い。早くどいてくれないと潰れる……
 俺がどうにかして剥がせないかともがいていると翔吾が居ないと騒ぎながら翔吾のお母さんが走ってきた。
 「こんなところに!戻るわよ!!」
 「イヤッ!イヤッ!イヤッ!!」
 ねこかわの如く駄々をこねる翔吾を引っ剥がそうとする母親に対抗し翔吾は俺を離すまいと抱きついてくる。
 「その子も困ってるでしょ!やめなさい!」
 「ケイちゃんが帰っちゃう!ヤダー!!」
 「離れろ翔吾!」
 その後も翔吾を引っ剥がそうと戦い、一時間してようやく翔吾が疲れて眠ってしまった。
 (…これは逆にまずいのでは?)
 にしてもこいつは風邪だってのに随分と強いんだな……
 今は感心している場合ではない。とりあえず俺は翔吾のお母さんと協力し翔吾を家の中まで運んだ。
 「ごめんなさいね、ウチの翔吾が……風邪でも移っちゃったら……」
 「いえ、生まれてから大した風邪も引いてこなかったので大丈夫です。それにマスクしてますからなんとかなりますよ…あ、そうだこれ翔吾くんのために買ってきたんで冷蔵庫にでも……」
 そう言って俺はコンビニで買ったブリンとポカリを渡した。
 「それじゃあ俺はこの辺で…お大事に」
 「ありがとね〜こんなにしてくれて」
 「いえいえ翔吾くんとは仲良くさせてもらってるので…」
 ……あれ、そういや告白されてるんだよな………運ぶために仕方なくとはいえ家の中にまで上がってしまって良かったのだろうか……
 玄関を出ると上からものすごい視線を感じる
 「ケイちゃん……」
 上を見ると漫画でしか見ない滝みたいな涙を流しながらこっちを見ている。
 「こわ……」
 しかもLIMEの通知が鳴り止まない…おそらく……
 (やっぱり翔吾だ……)
 LIMEには『会いたい』、『吸いたい』、『泊まってって』などわがままばっかりでまるで子供だ。
 俺はねこかわの寝ろというスタンプだけ送ってスマホを閉じようとした。
 その時、見覚えのない相手からLIMEが届いた。
 (誰だろ…)
 LIMEに届いたメッセージを確認するとすごい長文で中身も絵文字まみれだった。
 『藤上先輩お疲れ様です🙂‍↕️用があると聞きながらの急なLIME 失礼します葵です🙇今度の日曜日暇でしたら学校🏫近くのクレープ屋で待ち合わせしませんか❓️🙂いつでもお返事待ってます❗️』
 おっさんかよ……
 と流石に今の関係じゃツッコむのは失礼か……とりあえず日曜は暇だしオッケーして家に帰ろう。

 そして日曜日
 この前風邪引いたのに無理したから翔吾は風邪を悪化させてしまったみたいでまだ治らないみたいだ。
 俺はまた俺のせいで悪化させたら悪いと治るまで接近禁止を命じた。
 めちゃくちゃ泣いてるみたいだったがお構い無し、俺が行って毎回あれじゃ治るもんも治らん
 それよりも今は……
 「先輩!おはようございます!」
 「ん、おはよ」
 声がした方を振り向くと芸能人並みのキラキラオーラをまとったアオイがこちらへ向かってくるのが見えた。
 周りの人もアオイに釘付け。
 「先輩の私服初めて見ました」
 「普段制服だしな」
 「めっちゃかわいいです!」
 (小学生みたいな反応するな……)
 恐らくこういうのも初なのかな?まぁ俺もまともにしたこと少ないけど………
 とりあえずクレープ屋に入っていつものようにスペシャルジャンボクレープを頼むため、列に並んだ。
 「あら!ケイくんじゃない!」
 「どうも……いつものください」
 「いつもの…?」
 「はい、いつものね!そっちの子は連れの子?」
 「はい!じゃあ俺も同じので!」
 「え、いいのか?」
 あの量を食べ切れるとは思えない……
 相撲取りですらギリギリなレベルだぞ?
 
―――案の定……
 「これ…多いっすね量」
 「だからいいのかって聞いたろ」
 「うっ……でも先輩は…大丈夫なんすか?」
 「俺は全然、ごちそーさん」
 アオイと話してる間にも俺は食べ終わったので翔吾の鬼スタ連LIMEに既読だけつけながらアオイを待つ。
 「…これ持ち帰れないっすかね……もう無理……」
 アオイは半分が限界だったみたいでギブアップ。
 「持ち帰り自体はもともとそういう店だし……でもそれ持ちながら歩くのか?」
 半分は食べたとはいえそれでもだいぶでかい。
 クリームやフルーツが落ちたりでもしたらもったいないし持ち歩く定番といえば片手で持てるサイズだろう。
 両手が必要なクレープは持ち歩くものじゃない。
 「貸せ」
 「えっ」
 俺はアオイからクレープを奪いものすごい勢いで口に運び完食した。
 「せ、先輩すげー……」
 「ほら、行くぞ」
 「はい!」
 俺が席を立つと腹の音が鳴る。
 (朝ごはん食ってねえからなぁ……)
 ふとアオイの方を見ると人間じゃないものを見るような目でこちらを見つめていた。
 「……何?」
 「先輩アレ食べてもうお腹すいたんですか?」
 「悪いかよ、朝食ってきてねえんだキモいと思うなら帰りな」
 「い、いえ!尊敬します!」
 (いや、尊敬されても困るけど……まぁいいか)
 本人がそうしたいなら好きにしたらいいけど
 「腹減ったしそこのゴスト行くか」
 「え、流石にそれは……俺お腹いっぱいです……」

 流石に飯食いに行くのは無理という話になったので場所を移して人気(ひとけ)のない公園に到着した。
 「あの……お話があるんですけど……」
 「ん?どした?」
 アオイはもじもじしながらこちらを見つめる。
 風がふわっとアオイの重めの前髪を浮かせる。その時に見えた眉上に一つずつあるほくろはどこかで見たことがあるような気がした。
 「俺の…………」
 「…?俺の?」
 「……ずっと…伝えたかったことがあるんです」
 ずっと伝えたかったこと?こいつと俺は会ってからそんなに経ってないし……会ったときから変だったとか!?
 「………ありがとう」
 「俺なにかやっちゃっ………え?」
 ありがとう……?今日付き合ってくれてってことか?でもそれはアオイの方から誘ってきたから………
 「俺のこと忘れちゃった?ケイ兄」
 「…あ!」
 思い出した、眉上のほくろ、そして俺のことをケイ兄と呼んでくれたのはアイツしか居なかった。

 あれは俺が小四の頃
 「火事です!火事です!火災が発生しました!」
 「みんな伏せて!煙吸わないように!」
 俺が通っていた児童館で火事が発生した。
 その児童館はそこそこ広く職員も多かった。
 でも俺と一緒に遊んでいた年下の子は火に囲まれ身動きが取れなかった。
 スプリンクラーが作動しても足りないくらい火は大きくなり、俺達二人は死を覚悟した。
 その時の子は小学二年生、俺より幼いのにこんな事に巻き込まれてしまって怖いだろう。泣いて当然だ。
 「大丈夫、きっと助けが来る……」
 そして俺はそいつを安心させるために抱きしめた。
 その時の子は小さかったので俺の中にすっぽり収まった。
 煙を吸わなくて済むからその点でもこのままの方がいいだろう。
 「苦しいかもだけどもうちょっとの辛抱(しんぼう)だから……」
 その時だった。
 空いていた窓から風が吹き炎が揺らいだ。
 その炎は俺を直撃し左頬の辺りを燃やした。
 「っつ…!」
 「大丈夫!?ケイ兄!!」
 その時、顔が焼けた痛みで周りの声は聞こえなかった。
 後ろから誰かが来た気配はしたが俺はそのまま気絶してしまった………
 目が覚めると病院に居て隣には母さん、父さん、姉貴とあの時一緒に居た男の子の家族が居た。
 みんな、俺が目を覚ました瞬間泣き出すから俺までもらい泣きしてしまった。多分安心でもしてたんだろう。死んだと思ってたし……
 その時の男の子こそアオイだった。
 俺はあの後両親の仕事の都合で引っ越すことになった。
 アオイともまともに話さずに………

 ずっと伝えたかったことはあの時のことだったのだろう。
 今のアオイはあの時腕にすっぽり収まっていたはずの俺の身長を余裕で抜かしかわいらしかった顔も男前に成長していて気づかなかった。唯一変わってないのはほくろだろう。
 「俺、ケイ兄が守ってくれたあの時からずっとドキドキして落ち着かなかった、それでありがとうって言いたかったんだけど何処かに行っちゃって伝えられなかった」
 「……そう」
 ……あれ?ドキドキって………
 「それでやっと見つけられた。すごく嬉しかった」
 「うん」
 「それで…もう一個伝えたいことが」
 「…いいよ」
 なんとなく予想はつく。きっと……
 「…小二のあの時からずっとケイ兄が好きでした、再開してから時間も経ってないし…男の俺が男のケイ兄を好きなのは変だけど……俺は本気です……」
 その時、公園に居た鳩が一斉に羽ばたいた。
 その後数秒、静寂が訪れる。風も止み、車の音も何もしなかった。
 「………ありがとう。でも俺、恋人できたことないから急に言われても気持ちの整理が…追いつかない……」
 「……ですよね…すみません急に」
 断られたと取ってしまったのかアオイは悲しそうな顔をする。
 断ったわけじゃない、励まそうと俺はすぐ続けた。
 「でも俺男だからって恋愛対象にならないわけじゃない」
 「…!それって」
 「まぁ……答えを待ってくれると言うなら……考える時間が欲しいな」
 俺がそう答えるとさっきまでの悲しそうな顔は晴れてちょっと嬉しそうだった。
 「いつでも待ってます」
 俺達はそのまま別れて家へと向かった。
 
 ……どうしたもんか
 まさか二人からも告白されるだなんて思ってなかった
 翔吾への答えももうそろそろ決めないと……あれから結構時間経ってるから……
 これが(ぞく)に言う三角関係……俺は、どっちが好きなんだろうか………