翌朝、時刻は九時。俺は鳴り響く目覚ましを止め、再び眠りについた。
「起きろー!!!!!!!」
「うわっ……」
またも姉貴に二度寝を妨げられ驚いた拍子にベッドから転げ落ちてしまった。
「痛ってぇ……」
「デートでしょ今日、そのまま行く気?」
「まだ9時だろうが!」
「もう9時よ!」
まるで自分のことかのように慌ただしくしている姉貴を横目に布団に潜りこっそりと眠りについた。
「あ!また寝たでしょ!起きなさい!!」
今度は往復ビンタで目が覚める。俺が目を開けたにも関わらず姉貴は手を止めることなく俺が体を起こしベッドから立ち上がってようやくビンタは止んだ。
「てか毎回勝手に俺の部屋入るなよ」
「あんたが朝弱くて遅起きのくせに二度寝するからよ」
それは間違ってないから何も言い返せない……
「…でもお前すぐ暴力じゃん、アンパン◯ンかよ」
「誰がアンパン◯ンよ!これが一番手っ取り早いんだから」
そう言って姉貴はタンスから昨日あげた服を出し、俺に着るよう促した。
「ん!」
「はいはい、着替えれば良いんでしょ着替えれば」
「二度寝すんじゃないわよ」
「お前のせいで眠気飛んだわ」
「なら良かったじゃない、遅刻しなくて済むわよ♡」
叫ばれて往復ビンタされてまた二度寝しようとは思わないだろと言いたい気持ちを堪え、姉貴を部屋から追い出し渋々着替え始めた。
俺が着替えていると突然、家のチャイムが鳴った。
手が空いているのが姉貴だけだったみたいで姉貴の声と足音が遠くで聞こえる。
「あら〜!翔吾くん!」
……え?今なんて?
慌ててスマホの時計を見るがまだ10時。迎えに来るって言ってた時間より30分も早い。
「ごめんなさいね〜今ケイ着替えてて〜」
「…です……」
ドア越しに聞き耳を立てるが翔吾が何を話しているのかはうまく聞き取れなかった。姉貴が声バカでかいから聞こえるだけでここからじゃ聞こえなくても当然か。
「外暑かったでしょ〜?家上がっていいわよ〜!」
(!?)
何言ってんだあのバカ姉貴!俺が着替えてるって話はどこ行ったんだよ!!
「ケイー!早く着替えときなさいよ!」
「わかってるー!」
本当に家に上がったのならあのバカ姉貴があることないこと翔吾に話してくるかもしれん………それだけは阻止せねば
俺は急いで着替え、部屋の扉を開ける。
「べっ」
「え?」
扉を開けた途端何かが扉に当たった気がする……
恐る恐る見てみると扉の後ろには翔吾が立っておりその横に姉貴が口を開けて立っていた。
「……って!翔吾!?」
「翔吾くん大丈夫!?」
俺が急いで扉を開けたせいで翔吾が扉に顔をぶつけたみたいだ。
多分姉貴が連れてきたんだろうが俺にも非はある。ちらっと顔を覗き込むと鼻から血がたれてきていた。
「鼻血!?」
「え!?!?」
「救急車!!!」
「ええと……911だっけ!?」
「違う!110!!」
俺と姉貴がテンパっているとうずくまっていた翔吾が急に顔を上げ笑いだした。
「ハハッ!ふたりともテンパりすぎ、大丈夫だから。それに日本の救急車119だし」
「でも血が……」
「鼻つっぺしとけばいいよ」
翔吾はヘラヘラしながらそう言うが顔がいいのに鼻つっぺしてるとダサくなってしまう……
「でもダサいじゃん、お前せっかく顔良いんだから……」
「じゃあマスクして隠せばいいよ」
「………え?」
「いいじゃないお揃いで!」
姉貴はノリノリで予備用にあった新品のマスクを翔吾に渡した。
「ちょっと……!」
「クレープの美味しい猫カフェ見つけたのよね〜」
「うっ………」
物で釣る作戦か……そんなの………
「いってらっしゃーい!」
まんまと釣られた……俺ってもしかしなくてもチョロいんじゃないか………
「ケイっ!」
「え、何……」
「おそろい嬉しいね」
「なんか恥ずいからヤダ……」
「恥ずかしがってるケイ撮っていい!?」
「やめろ、てか撮りながら聞くな」
「だってかわいいんだもん」
俺がスマホを奪って止めようとするものの、自慢の高身長でひらりと躱されてしまう。
翔吾はそれを楽しんでいるようでスマホの連写は止まらない。
「よこせ!」
「ギャハハ!かわいいー!」
どうにかして翔吾を止めれないだろうか………いや、あれなら止められるかもしれない……めっちゃ恥ずいけど背に腹は代えられん!
「……意地悪な翔吾……嫌い………写真撮ってこない翔吾は……好き」
「はい!やめます!」
「………」
翔吾もチョロいのでは?俺が好きとか言えば何でもしてくれるし……ただ今でもおかしい距離感が更にバグるから最終奥義なんだよな……
「俺もケイのこと好きだよ〜♡結婚しよ♡」
「冗談やめろ、友達として好きなの」
「…そう」
翔吾はこれでもかというほどに目を輝かせながらニコニコしてる。最近はマスクをしている人のほうが珍しいし、ましてや同じマスクなんて余計目立ってしまう。
でもさっきちょっと間があった気がするけど気のせいか?女子から聞いた話だと小学校の頃は女たらしでよく口説いていたらしい。小学校の頃陰で呼ばれていたあだ名は毒舌クズホストだそうだ。
中学の頃初めて会ったけどそんな感じではなかったからまさかとは思ったが意外と被害者が多かったので多分本当だろう。
「お前小学校の時からそうだったん?」
「ん?ああその話か…そうだけど今はケイいるからやめたよ」
「俺たらしにチェンジしたってことか」
「言い方酷いな〜、一途なの!ゾッコン!嫌だった?」
「……まぁ悪い気はしないけど…もっと考えて行動しろよ」
「わかったー」
本当にわかったのかよ……と言おうとしたところで目的地の水族館へ到着し、それは棚の奥にしまうこととなった。
「最初何見る!?ウツボ!?タコ!?」
「なんか渋いな……」
「じゃあマグロ?サーモン?」
「寿司屋じゃねえんだから」
「えーじゃあjellyfishとか?」
「欧米か」
思わずツッコむ。
それに対し翔吾もノリノリで「お前はトシか!」とツッコんできた。
「なんでお前もツッコむんだよ」
「えー、そのほうが逆に面白くない?」
普通に違和感だろ。ツッコミ二人のお笑いなんて。
「ほら見て、クラゲだよ」
「わ、綺麗〜」
クラゲコーナーは足元にあるガラス張りの水槽にもクラゲが泳いでいてとても綺麗だ。まるでイルミネーションみたい。
「クラゲって食えんのかな」
「フフッ、お前食い物の話ばっかだな」
「ケイが笑った!!」
「うっさい、迷惑だろ。水槽に沈めてやろうか」
「数秒でそれ思いつくの怖すぎだろ」
そんな感じで俺らがピーピー騒いでいると突然肩をちょんちょんと叩かれた。
「誰……って、宏斗さんか」
「ケイくんもここ来てたんだね」
「ん、誰?」
翔吾は俺に抱きつきながら宏斗さんを睨みつける。
「あー、この人姉貴の友達で……」
「はじめまして!伏見宏斗です!………それで二人はどういう関係で?もしかして付き合って……?」
やっぱりそういう質問くるよな……宏斗さん姉貴の友達だけあって腐男子だから覚悟はしていた。
「付き合っては……」
「まだ付き合ってないでーす」
俺が付き合っていないと言おうとした瞬間先に言われてしま………まだ?付き合う予定なんてないですけど………
「二人で水族館デート?いいじゃん!」
「デートじゃない!」
俺は強く否定するが翔吾はデートと聞いてニマニマしている。
「そっかー……じゃ、るーくん待たせてるから行くね、ばいばーい」
「……るーくん?」
「多分あの人の彼氏………」
多分四人目だろうけどあの人が長続きしてるとこ見たことない………
「ふーん、失礼だけど物好きもいるもんだね」
「!?失礼にもほどがあんだろ!」
「いやだって初対面の俺に『二人付き合ってんの?』はノンデリだろ」
たしかにそれはそう………
「あの人姉貴の友達でさ」
「ふーん」
「てか離れろ」
宏斗さんが離れたのにもかかわらずいつまで経ってもくっついている翔吾を剥がそうとするが無駄に力が強くてなかなか離れない。
「ケイちゃんがんばれ~」
「その呼び方やめろ!恥ずいんですけど!!」
「ははは~かわいい〜」
こいつ……!なんでこんなに力強ぇんだよ!
最終手段を使うしかないか………そう諦めかけた時、突然皆が一箇所へ集まっていった。
「なんだろあれ、行ってみよ〜」
「いいけど………このままはやめろよ」
「わかったよ〜」
翔吾はあっさり離れてくれてホッとしたが、今度は手を握り人混みの方へと走り出した。
「はぁ!?ちょっ………」
「これならいいでしょ?身動き取れるし」
「そういうことじゃ………」
「見て!ペンギン!」
人混みをくぐり抜け見えたのはたくさんのペンギンだった。
テチテチ歩く姿に皆メロメロで思わず、先程までのことがどうでも良くなる。
「かあいいね」
「そうだな……」
「写真撮ろ、ピース!」
翔吾は俺の肩を寄せてペンギンをバックに写真を撮る。
陽キャは行動に移すまでが早すぎる……こっちにだって準備が………
「インスタあげていい!?」
「いいけど……変なこと書くなよ?お前のことだから『ケイと水族館デート♡』とか書くんだろ」
「…エスパー!?」
当たりかい……
「俺もあげたいからもっかい撮ろ」
「え、ケイが自ら俺を誘いに…!?」
「違う、誰もお前と撮るなんて言ってない」
「違うの!?」
翔吾はマスク越しでもわかるくらい大きく口を開け驚いていた。どんだけ俺と撮りたいんだよ………
「……でもお前が撮りたいってんなら一枚くらいは………いいけど」
「ほんと!?」
「一枚だけな!二枚目以降は…撮らない」
「撮ってくれるだけでも嬉しいよ〜♡」
「撮らないって言ってもどうせ撮らせてくるだろうから仕方なく撮るんだ、俺が撮りたいわけじゃない………」
「ペンギン行っちゃうよ、早く撮ろ!」
まぁ…スマホの壁紙くらいにならしてやってもいいか、写真フォルダに入れてるだけじゃ申し訳ないし
いやでも万が一壁紙にしてるのがバレたらキモがられるかも…………とりあえず今は大人しくこいつに付き合ってやろう。
帰り際
俺がチンアナゴの集団を見ているとラッピングされた小さな包みを恥ずかしそうにしながら渡してきた。
「ケイちゃん……これ……」
「なにこれ」
「開けてみて」
言われるがまま包み紙をきれいに剥がすと中からはかわいらしい青色のイルカのキーホルダーが出てきた
「これ……」
「ケイちゃんが嫌ならいいんだけど……」
翔吾がこんな消極的なの初めてだ。
いつもなら「はい!あげる!バイバイ!」で無理やり渡してるのに………
「…あれ、それ………」
よく見ると翔吾の手にもなにか握られている。
宝石のようなものがキラリと光ったように見えたが翔吾は咄嗟に隠してしまった。
「何隠してんの?」
「…なんでもいいだろ」
「お前変だぞ、いつもなら押し付けてくるくせに」
「……はい」
翔吾はあっさり隠していたものを見せてきた。
それは俺が貰ったキーホルダーの色違いできれいな緑色をしていた。
「これ……」
「………ペアキーホルダー」
「そう……でもなんで隠そうとしたん?いつもベタベタなくせに」
「あれ見てみ」
翔吾の指差す方を見るとそこには『愛の告白に!永遠の縁で結ばれる!?最強恋愛アイテム!エンゲージドルフィン!』とデカデカと書かれたpopがあった
「あれクソ恥ずいし……それに………」
「…それに?」
「……あれ見たでしょ?つまりそういうこと」
…ん?この流れはもしや
「ケイが恋愛対象として大好きだから……ごめん、きもいよな」
「………」
確かに距離も近いし言われてみれば納得はできる
俺はそんな風に思ったことはないけど翔吾は昨日今日の想いじゃないだろう、中学からこんな感じだったし。
「……ごめんね、困らせちゃって…また友達として……」
「…違う」
「ガーン!友達でもないってこと!?」
「お前はムンクか、それも違う」
俺だってこいつの意見は尊重したい。
翔吾といるとちょっとしつこいけど別に許容範囲。
なんなら楽しい寄りだから離れてほしくない。
この気持ちが恋なのかはわからないが姉貴以外で信頼できるやつの一人。
そもそも俺の家庭は複雑だし両親は端から信頼してない。そんなときに元気づけようとしてくれたのが翔吾だった。
中二の頃、翔吾は夏休み明けから転校してきた。
当時から顔よし成績よし運動神経バツグンで女子人気が高かった。
スタートダッシュに失敗し、友達がいない俺からしたら転校生しか仲良くなれそうな人は居なかった。
「あの……」
「片野くんってどこから来たの?」
「……宮城」
「ねね、LIME交換しない?」
「無理」
(…思ったより無愛想だな……)
そんなやつに俺が話しかけたところで……と思い離れようとしたらそれに気づいた翔吾に呼び止められる。
「ねーそこの君、俺に何か用?」
「え……俺?」
「お前しかいねーだろ」
そんな風に言われるとなんか……傷つく………
虐められていたからだろうか………
俺が戸惑っていると翔吾の近くに居た女子が口を開いた
「片野くん、そいつ化け物だから相手しないほうがいいよ?」
「化け物?」
「そう!」
その女子はニコニコしながらこっちに近づいてきた。
何をするのかと身構えるがそいつの取り巻きから拘束され、その女子に無理やりマスクを外された。
「ほら見てよ〜、こいつ顔化け物でしょ?よくこんなんで学校来れるよね〜」
「っ………」
最初にマスクの下を見られたのは小学校。
給食の時頑なに外さない俺を見て同じ班の男子が無理やり外してきたのが始まりだった。
中学に入ってからは保健室で食べるかコソコソと食べることが多かったのでそこまで気にされてなかった。
もともと、影は薄い方だったから。
でも悲劇は学芸会。うちのクラスではステージで美女と野獣をやることになった。
「…ねえ藤上さあ、マスク外さないの?」
「え」
「劇くらい外せよな」
「ちょっ……」
そう言ってクラスの男子が引っ剥がしてからだった。
「うわ、きも」
「化け物じゃん」
「………っ…」
耳に入ってくる言葉はみんな、聞きたくないようなひどい言葉ばっかりだった。
「こいつ野獣役でいいんじゃない?」
「いいね〜あ、でもこいつとダンスすんのは嫌だわ、化け物が移る」
それから俺はクラスだけでなく学年中に素顔を晒された。
藤上は化け物、妖怪、カエルの親戚など散々な言われようだった。
それから俺は心を閉ざした。
両親は共働きで家ではいつも姉貴と二人きりだった。
「あんた最近暗いわよ?何かあった?」
「……いつものことだろ」
「そう?でもご飯にだって手つけてないじゃない」
「…お前には関係ない」
そう言って俺は自分の部屋へと戻った。
そこで一人泣いていた。死のうとも思った。
けれどしばらくして姉貴が部屋に入ってきた。
「じゃーん!ニャンスタの姫野くんのぷちぬい〜!」
「………」
「昨日たまたまゲーセンで見かけてね〜、あんた好きでしょ?ニャンサンブルスターズ姫野くんボイスよく聞くし」
「……人のスマホの音聞くとかきも」
姉貴はその後も寝落ちするまで俺に寄り添ってくれた。そこから姉貴のことを段々と信用してきて今では一番心を許している。
ただ、ちょっとうざい………
―――必死に手を振りほどこうとするが非力な俺には敵わなかった。
翔吾を見ると蔑んだようなめでこちらを見てきた。
「ほんとありえねー、よく来れるよな」
「あ………」
転校生にまで虐められるのか……この顔のせいで………せっかく仲良くなれると思ったのに………
「だよね~!あんたさっさと消えたら?」
「早く消えろよアバズレ、ブスが移るわ」
その言葉に周りは一瞬黙り込んだ。
女子もそんな事言われるとは思っていなかったのか目を丸くしている。
「聞こえなかったか?早く消えろブス」
「…はぁ~!?それ私!?」
「自覚ねえのか、ほんと気持ち悪い」
俺に向けられていたのかと思いきや翔吾は最初から女子の方を責めていたみたいだ。
「人の容姿で判断するやつマジ嫌いなんだよね〜、なんで学校来てんの?」
「何言って……」
「ブスのくせに彼氏とか作ろうとしてる感じ?」
「ひ、人のことブスって言うくせに容姿で判断するなとか…!」
そいつは翔吾を指差し睨みつけながら言う。
だが翔吾はそいつに目もくれず取られたマスクを奪い返し俺に渡してきた。
「大丈夫?先生呼ぼっか?」
「………」
俺は黙って首を横に振る。
先生はきっと立ち会ってくれない。前相談したときも軽く注意するだけでいじめは減らなかった。
「ちょっと!話聞いてんの!?」
さっきの女子がキレながら話しかけてくる。
翔吾はしゃがみ込んで俺の涙を拭い、女子を睨みつける。
その時、学校一怖いと恐れられている田淵先生が入ってきた。
「ここ、うるさい」
「あ、ちょうどよかった先生!実は………」
翔吾はそこで今までのことを少し盛って田淵先生にチクった。
田淵先生は呆れた顔をして主犯格の女子と取り巻きたちを放課後残るように言い放った。
女子たちは俺の方を睨みつけるが、翔吾が俺に抱きつき女子たちを見て嘲笑した。
それからというもの翔吾の距離感は異常だった。
修学旅行ではリュックみたいに覆いかぶさって寝相の悪さを理由に一緒の布団に入ってきたりご飯に至っては必要以上にあーんしてきたりもうめちゃくちゃで一部からはバカップル旅行と揶揄されたり恥ずかしいったらありゃしない。
それが今………
「ケイが俺のことそんな風に見てくれてるとは思ってないけど俺は本気だよ」
こうなってしまった。
今までネタとして受け流してきた告白のようなものも今思えば全部本気だったと思うと罪悪感がある………
「ケイはどうしたい?」
「俺は………」
……どうしたらいいんだろう
断ったり中途半端な気持ちで付き合うのも傷つけちゃうし………
「……まずはありがとう?」
「それ絶対振られるやつじゃん!」
そう言って翔吾はうずくまり泣き出した。
そんな翔吾をなだめてまた続けた。
「俺だって……翔吾は好きだけど………」
好きという言葉に反応した翔吾は先程までうずくまっていたとは思えないほど目を輝かせる。
「ただ…この好きが恋愛対象としてなのかはわからない」
そう答えると先程までとは違って少ししょぼくれていた。
「……あ、でもこのキーホルダー…すごく嬉しい」
「……それはよかった」
「あの……大事にするから……少し待っててほしい……中途半端な気持ちで付き合ってたら翔吾のこと傷つけちゃうかもだし」
「うん、いつでも待ってるよ」
翔吾は俺の頭を軽く撫でてから出口の方へと歩いていく。
俺にはついていくことしかできなかったが翔吾がくれたキーホルダーを大事に握りしめ、ホーム画面に設定した翔吾とのツーショ。
俺の答えも早く見つけないとな。
「起きろー!!!!!!!」
「うわっ……」
またも姉貴に二度寝を妨げられ驚いた拍子にベッドから転げ落ちてしまった。
「痛ってぇ……」
「デートでしょ今日、そのまま行く気?」
「まだ9時だろうが!」
「もう9時よ!」
まるで自分のことかのように慌ただしくしている姉貴を横目に布団に潜りこっそりと眠りについた。
「あ!また寝たでしょ!起きなさい!!」
今度は往復ビンタで目が覚める。俺が目を開けたにも関わらず姉貴は手を止めることなく俺が体を起こしベッドから立ち上がってようやくビンタは止んだ。
「てか毎回勝手に俺の部屋入るなよ」
「あんたが朝弱くて遅起きのくせに二度寝するからよ」
それは間違ってないから何も言い返せない……
「…でもお前すぐ暴力じゃん、アンパン◯ンかよ」
「誰がアンパン◯ンよ!これが一番手っ取り早いんだから」
そう言って姉貴はタンスから昨日あげた服を出し、俺に着るよう促した。
「ん!」
「はいはい、着替えれば良いんでしょ着替えれば」
「二度寝すんじゃないわよ」
「お前のせいで眠気飛んだわ」
「なら良かったじゃない、遅刻しなくて済むわよ♡」
叫ばれて往復ビンタされてまた二度寝しようとは思わないだろと言いたい気持ちを堪え、姉貴を部屋から追い出し渋々着替え始めた。
俺が着替えていると突然、家のチャイムが鳴った。
手が空いているのが姉貴だけだったみたいで姉貴の声と足音が遠くで聞こえる。
「あら〜!翔吾くん!」
……え?今なんて?
慌ててスマホの時計を見るがまだ10時。迎えに来るって言ってた時間より30分も早い。
「ごめんなさいね〜今ケイ着替えてて〜」
「…です……」
ドア越しに聞き耳を立てるが翔吾が何を話しているのかはうまく聞き取れなかった。姉貴が声バカでかいから聞こえるだけでここからじゃ聞こえなくても当然か。
「外暑かったでしょ〜?家上がっていいわよ〜!」
(!?)
何言ってんだあのバカ姉貴!俺が着替えてるって話はどこ行ったんだよ!!
「ケイー!早く着替えときなさいよ!」
「わかってるー!」
本当に家に上がったのならあのバカ姉貴があることないこと翔吾に話してくるかもしれん………それだけは阻止せねば
俺は急いで着替え、部屋の扉を開ける。
「べっ」
「え?」
扉を開けた途端何かが扉に当たった気がする……
恐る恐る見てみると扉の後ろには翔吾が立っておりその横に姉貴が口を開けて立っていた。
「……って!翔吾!?」
「翔吾くん大丈夫!?」
俺が急いで扉を開けたせいで翔吾が扉に顔をぶつけたみたいだ。
多分姉貴が連れてきたんだろうが俺にも非はある。ちらっと顔を覗き込むと鼻から血がたれてきていた。
「鼻血!?」
「え!?!?」
「救急車!!!」
「ええと……911だっけ!?」
「違う!110!!」
俺と姉貴がテンパっているとうずくまっていた翔吾が急に顔を上げ笑いだした。
「ハハッ!ふたりともテンパりすぎ、大丈夫だから。それに日本の救急車119だし」
「でも血が……」
「鼻つっぺしとけばいいよ」
翔吾はヘラヘラしながらそう言うが顔がいいのに鼻つっぺしてるとダサくなってしまう……
「でもダサいじゃん、お前せっかく顔良いんだから……」
「じゃあマスクして隠せばいいよ」
「………え?」
「いいじゃないお揃いで!」
姉貴はノリノリで予備用にあった新品のマスクを翔吾に渡した。
「ちょっと……!」
「クレープの美味しい猫カフェ見つけたのよね〜」
「うっ………」
物で釣る作戦か……そんなの………
「いってらっしゃーい!」
まんまと釣られた……俺ってもしかしなくてもチョロいんじゃないか………
「ケイっ!」
「え、何……」
「おそろい嬉しいね」
「なんか恥ずいからヤダ……」
「恥ずかしがってるケイ撮っていい!?」
「やめろ、てか撮りながら聞くな」
「だってかわいいんだもん」
俺がスマホを奪って止めようとするものの、自慢の高身長でひらりと躱されてしまう。
翔吾はそれを楽しんでいるようでスマホの連写は止まらない。
「よこせ!」
「ギャハハ!かわいいー!」
どうにかして翔吾を止めれないだろうか………いや、あれなら止められるかもしれない……めっちゃ恥ずいけど背に腹は代えられん!
「……意地悪な翔吾……嫌い………写真撮ってこない翔吾は……好き」
「はい!やめます!」
「………」
翔吾もチョロいのでは?俺が好きとか言えば何でもしてくれるし……ただ今でもおかしい距離感が更にバグるから最終奥義なんだよな……
「俺もケイのこと好きだよ〜♡結婚しよ♡」
「冗談やめろ、友達として好きなの」
「…そう」
翔吾はこれでもかというほどに目を輝かせながらニコニコしてる。最近はマスクをしている人のほうが珍しいし、ましてや同じマスクなんて余計目立ってしまう。
でもさっきちょっと間があった気がするけど気のせいか?女子から聞いた話だと小学校の頃は女たらしでよく口説いていたらしい。小学校の頃陰で呼ばれていたあだ名は毒舌クズホストだそうだ。
中学の頃初めて会ったけどそんな感じではなかったからまさかとは思ったが意外と被害者が多かったので多分本当だろう。
「お前小学校の時からそうだったん?」
「ん?ああその話か…そうだけど今はケイいるからやめたよ」
「俺たらしにチェンジしたってことか」
「言い方酷いな〜、一途なの!ゾッコン!嫌だった?」
「……まぁ悪い気はしないけど…もっと考えて行動しろよ」
「わかったー」
本当にわかったのかよ……と言おうとしたところで目的地の水族館へ到着し、それは棚の奥にしまうこととなった。
「最初何見る!?ウツボ!?タコ!?」
「なんか渋いな……」
「じゃあマグロ?サーモン?」
「寿司屋じゃねえんだから」
「えーじゃあjellyfishとか?」
「欧米か」
思わずツッコむ。
それに対し翔吾もノリノリで「お前はトシか!」とツッコんできた。
「なんでお前もツッコむんだよ」
「えー、そのほうが逆に面白くない?」
普通に違和感だろ。ツッコミ二人のお笑いなんて。
「ほら見て、クラゲだよ」
「わ、綺麗〜」
クラゲコーナーは足元にあるガラス張りの水槽にもクラゲが泳いでいてとても綺麗だ。まるでイルミネーションみたい。
「クラゲって食えんのかな」
「フフッ、お前食い物の話ばっかだな」
「ケイが笑った!!」
「うっさい、迷惑だろ。水槽に沈めてやろうか」
「数秒でそれ思いつくの怖すぎだろ」
そんな感じで俺らがピーピー騒いでいると突然肩をちょんちょんと叩かれた。
「誰……って、宏斗さんか」
「ケイくんもここ来てたんだね」
「ん、誰?」
翔吾は俺に抱きつきながら宏斗さんを睨みつける。
「あー、この人姉貴の友達で……」
「はじめまして!伏見宏斗です!………それで二人はどういう関係で?もしかして付き合って……?」
やっぱりそういう質問くるよな……宏斗さん姉貴の友達だけあって腐男子だから覚悟はしていた。
「付き合っては……」
「まだ付き合ってないでーす」
俺が付き合っていないと言おうとした瞬間先に言われてしま………まだ?付き合う予定なんてないですけど………
「二人で水族館デート?いいじゃん!」
「デートじゃない!」
俺は強く否定するが翔吾はデートと聞いてニマニマしている。
「そっかー……じゃ、るーくん待たせてるから行くね、ばいばーい」
「……るーくん?」
「多分あの人の彼氏………」
多分四人目だろうけどあの人が長続きしてるとこ見たことない………
「ふーん、失礼だけど物好きもいるもんだね」
「!?失礼にもほどがあんだろ!」
「いやだって初対面の俺に『二人付き合ってんの?』はノンデリだろ」
たしかにそれはそう………
「あの人姉貴の友達でさ」
「ふーん」
「てか離れろ」
宏斗さんが離れたのにもかかわらずいつまで経ってもくっついている翔吾を剥がそうとするが無駄に力が強くてなかなか離れない。
「ケイちゃんがんばれ~」
「その呼び方やめろ!恥ずいんですけど!!」
「ははは~かわいい〜」
こいつ……!なんでこんなに力強ぇんだよ!
最終手段を使うしかないか………そう諦めかけた時、突然皆が一箇所へ集まっていった。
「なんだろあれ、行ってみよ〜」
「いいけど………このままはやめろよ」
「わかったよ〜」
翔吾はあっさり離れてくれてホッとしたが、今度は手を握り人混みの方へと走り出した。
「はぁ!?ちょっ………」
「これならいいでしょ?身動き取れるし」
「そういうことじゃ………」
「見て!ペンギン!」
人混みをくぐり抜け見えたのはたくさんのペンギンだった。
テチテチ歩く姿に皆メロメロで思わず、先程までのことがどうでも良くなる。
「かあいいね」
「そうだな……」
「写真撮ろ、ピース!」
翔吾は俺の肩を寄せてペンギンをバックに写真を撮る。
陽キャは行動に移すまでが早すぎる……こっちにだって準備が………
「インスタあげていい!?」
「いいけど……変なこと書くなよ?お前のことだから『ケイと水族館デート♡』とか書くんだろ」
「…エスパー!?」
当たりかい……
「俺もあげたいからもっかい撮ろ」
「え、ケイが自ら俺を誘いに…!?」
「違う、誰もお前と撮るなんて言ってない」
「違うの!?」
翔吾はマスク越しでもわかるくらい大きく口を開け驚いていた。どんだけ俺と撮りたいんだよ………
「……でもお前が撮りたいってんなら一枚くらいは………いいけど」
「ほんと!?」
「一枚だけな!二枚目以降は…撮らない」
「撮ってくれるだけでも嬉しいよ〜♡」
「撮らないって言ってもどうせ撮らせてくるだろうから仕方なく撮るんだ、俺が撮りたいわけじゃない………」
「ペンギン行っちゃうよ、早く撮ろ!」
まぁ…スマホの壁紙くらいにならしてやってもいいか、写真フォルダに入れてるだけじゃ申し訳ないし
いやでも万が一壁紙にしてるのがバレたらキモがられるかも…………とりあえず今は大人しくこいつに付き合ってやろう。
帰り際
俺がチンアナゴの集団を見ているとラッピングされた小さな包みを恥ずかしそうにしながら渡してきた。
「ケイちゃん……これ……」
「なにこれ」
「開けてみて」
言われるがまま包み紙をきれいに剥がすと中からはかわいらしい青色のイルカのキーホルダーが出てきた
「これ……」
「ケイちゃんが嫌ならいいんだけど……」
翔吾がこんな消極的なの初めてだ。
いつもなら「はい!あげる!バイバイ!」で無理やり渡してるのに………
「…あれ、それ………」
よく見ると翔吾の手にもなにか握られている。
宝石のようなものがキラリと光ったように見えたが翔吾は咄嗟に隠してしまった。
「何隠してんの?」
「…なんでもいいだろ」
「お前変だぞ、いつもなら押し付けてくるくせに」
「……はい」
翔吾はあっさり隠していたものを見せてきた。
それは俺が貰ったキーホルダーの色違いできれいな緑色をしていた。
「これ……」
「………ペアキーホルダー」
「そう……でもなんで隠そうとしたん?いつもベタベタなくせに」
「あれ見てみ」
翔吾の指差す方を見るとそこには『愛の告白に!永遠の縁で結ばれる!?最強恋愛アイテム!エンゲージドルフィン!』とデカデカと書かれたpopがあった
「あれクソ恥ずいし……それに………」
「…それに?」
「……あれ見たでしょ?つまりそういうこと」
…ん?この流れはもしや
「ケイが恋愛対象として大好きだから……ごめん、きもいよな」
「………」
確かに距離も近いし言われてみれば納得はできる
俺はそんな風に思ったことはないけど翔吾は昨日今日の想いじゃないだろう、中学からこんな感じだったし。
「……ごめんね、困らせちゃって…また友達として……」
「…違う」
「ガーン!友達でもないってこと!?」
「お前はムンクか、それも違う」
俺だってこいつの意見は尊重したい。
翔吾といるとちょっとしつこいけど別に許容範囲。
なんなら楽しい寄りだから離れてほしくない。
この気持ちが恋なのかはわからないが姉貴以外で信頼できるやつの一人。
そもそも俺の家庭は複雑だし両親は端から信頼してない。そんなときに元気づけようとしてくれたのが翔吾だった。
中二の頃、翔吾は夏休み明けから転校してきた。
当時から顔よし成績よし運動神経バツグンで女子人気が高かった。
スタートダッシュに失敗し、友達がいない俺からしたら転校生しか仲良くなれそうな人は居なかった。
「あの……」
「片野くんってどこから来たの?」
「……宮城」
「ねね、LIME交換しない?」
「無理」
(…思ったより無愛想だな……)
そんなやつに俺が話しかけたところで……と思い離れようとしたらそれに気づいた翔吾に呼び止められる。
「ねーそこの君、俺に何か用?」
「え……俺?」
「お前しかいねーだろ」
そんな風に言われるとなんか……傷つく………
虐められていたからだろうか………
俺が戸惑っていると翔吾の近くに居た女子が口を開いた
「片野くん、そいつ化け物だから相手しないほうがいいよ?」
「化け物?」
「そう!」
その女子はニコニコしながらこっちに近づいてきた。
何をするのかと身構えるがそいつの取り巻きから拘束され、その女子に無理やりマスクを外された。
「ほら見てよ〜、こいつ顔化け物でしょ?よくこんなんで学校来れるよね〜」
「っ………」
最初にマスクの下を見られたのは小学校。
給食の時頑なに外さない俺を見て同じ班の男子が無理やり外してきたのが始まりだった。
中学に入ってからは保健室で食べるかコソコソと食べることが多かったのでそこまで気にされてなかった。
もともと、影は薄い方だったから。
でも悲劇は学芸会。うちのクラスではステージで美女と野獣をやることになった。
「…ねえ藤上さあ、マスク外さないの?」
「え」
「劇くらい外せよな」
「ちょっ……」
そう言ってクラスの男子が引っ剥がしてからだった。
「うわ、きも」
「化け物じゃん」
「………っ…」
耳に入ってくる言葉はみんな、聞きたくないようなひどい言葉ばっかりだった。
「こいつ野獣役でいいんじゃない?」
「いいね〜あ、でもこいつとダンスすんのは嫌だわ、化け物が移る」
それから俺はクラスだけでなく学年中に素顔を晒された。
藤上は化け物、妖怪、カエルの親戚など散々な言われようだった。
それから俺は心を閉ざした。
両親は共働きで家ではいつも姉貴と二人きりだった。
「あんた最近暗いわよ?何かあった?」
「……いつものことだろ」
「そう?でもご飯にだって手つけてないじゃない」
「…お前には関係ない」
そう言って俺は自分の部屋へと戻った。
そこで一人泣いていた。死のうとも思った。
けれどしばらくして姉貴が部屋に入ってきた。
「じゃーん!ニャンスタの姫野くんのぷちぬい〜!」
「………」
「昨日たまたまゲーセンで見かけてね〜、あんた好きでしょ?ニャンサンブルスターズ姫野くんボイスよく聞くし」
「……人のスマホの音聞くとかきも」
姉貴はその後も寝落ちするまで俺に寄り添ってくれた。そこから姉貴のことを段々と信用してきて今では一番心を許している。
ただ、ちょっとうざい………
―――必死に手を振りほどこうとするが非力な俺には敵わなかった。
翔吾を見ると蔑んだようなめでこちらを見てきた。
「ほんとありえねー、よく来れるよな」
「あ………」
転校生にまで虐められるのか……この顔のせいで………せっかく仲良くなれると思ったのに………
「だよね~!あんたさっさと消えたら?」
「早く消えろよアバズレ、ブスが移るわ」
その言葉に周りは一瞬黙り込んだ。
女子もそんな事言われるとは思っていなかったのか目を丸くしている。
「聞こえなかったか?早く消えろブス」
「…はぁ~!?それ私!?」
「自覚ねえのか、ほんと気持ち悪い」
俺に向けられていたのかと思いきや翔吾は最初から女子の方を責めていたみたいだ。
「人の容姿で判断するやつマジ嫌いなんだよね〜、なんで学校来てんの?」
「何言って……」
「ブスのくせに彼氏とか作ろうとしてる感じ?」
「ひ、人のことブスって言うくせに容姿で判断するなとか…!」
そいつは翔吾を指差し睨みつけながら言う。
だが翔吾はそいつに目もくれず取られたマスクを奪い返し俺に渡してきた。
「大丈夫?先生呼ぼっか?」
「………」
俺は黙って首を横に振る。
先生はきっと立ち会ってくれない。前相談したときも軽く注意するだけでいじめは減らなかった。
「ちょっと!話聞いてんの!?」
さっきの女子がキレながら話しかけてくる。
翔吾はしゃがみ込んで俺の涙を拭い、女子を睨みつける。
その時、学校一怖いと恐れられている田淵先生が入ってきた。
「ここ、うるさい」
「あ、ちょうどよかった先生!実は………」
翔吾はそこで今までのことを少し盛って田淵先生にチクった。
田淵先生は呆れた顔をして主犯格の女子と取り巻きたちを放課後残るように言い放った。
女子たちは俺の方を睨みつけるが、翔吾が俺に抱きつき女子たちを見て嘲笑した。
それからというもの翔吾の距離感は異常だった。
修学旅行ではリュックみたいに覆いかぶさって寝相の悪さを理由に一緒の布団に入ってきたりご飯に至っては必要以上にあーんしてきたりもうめちゃくちゃで一部からはバカップル旅行と揶揄されたり恥ずかしいったらありゃしない。
それが今………
「ケイが俺のことそんな風に見てくれてるとは思ってないけど俺は本気だよ」
こうなってしまった。
今までネタとして受け流してきた告白のようなものも今思えば全部本気だったと思うと罪悪感がある………
「ケイはどうしたい?」
「俺は………」
……どうしたらいいんだろう
断ったり中途半端な気持ちで付き合うのも傷つけちゃうし………
「……まずはありがとう?」
「それ絶対振られるやつじゃん!」
そう言って翔吾はうずくまり泣き出した。
そんな翔吾をなだめてまた続けた。
「俺だって……翔吾は好きだけど………」
好きという言葉に反応した翔吾は先程までうずくまっていたとは思えないほど目を輝かせる。
「ただ…この好きが恋愛対象としてなのかはわからない」
そう答えると先程までとは違って少ししょぼくれていた。
「……あ、でもこのキーホルダー…すごく嬉しい」
「……それはよかった」
「あの……大事にするから……少し待っててほしい……中途半端な気持ちで付き合ってたら翔吾のこと傷つけちゃうかもだし」
「うん、いつでも待ってるよ」
翔吾は俺の頭を軽く撫でてから出口の方へと歩いていく。
俺にはついていくことしかできなかったが翔吾がくれたキーホルダーを大事に握りしめ、ホーム画面に設定した翔吾とのツーショ。
俺の答えも早く見つけないとな。


