悠馬の家の玄関に入ると、いつもの見慣れた光景が広がっていた。でも今日は、なんだかいつもと違って見えた。告白してからというもの、自分の感覚がどこかおかしくなってしまった気がする。
「傘をさしてたけど、結構濡れたな」
悠馬が振り返りながらそう言った。確かに、制服の肩のあたりが少し湿っているのが分かる。
「玄関で待ってろ」
そう告げて、悠馬は奥の部屋へ向かった。しばらくして戻ってきた彼は、オレに向かってタオルを投げてよこす。
「ありがとう」
オレはそれを受け取って、慣れ親しんだ廊下を歩いて悠馬の部屋に向かった。
悠馬の部屋はオレの部屋より一回り広くて、ベッドの他に部屋の真ん中には小さなテーブルが置いてある。壁際にはサッカー部で使うスパイクやユニフォーム、トレーニング用のダンベルなんかが整然と並んでいて、いかにも高校男児らしい部屋だった。オレの部屋とは全然違う。オレの部屋は漫画や小説がごちゃごちゃと積まれているのに、悠馬の部屋はいつもきちんと片付いている。
テーブルの前に座って、濡れたカバンをタオルで拭き始める。制服の袖も少し湿っていたから、それも軽く拭いた。雨の匂いがかすかに鼻をくすぐる。
そんな時、後ろから衣擦れの音が聞こえた。振り返ると、悠馬が制服のシャツを脱いでハンガーにかけているところだった。
上半身裸の悠馬の姿を目にして、オレは慌てて視線を逸らした。心臓がやけにうるさく脈打ち始める。
でも……ちらりと横目で見てしまう。
昔は自分と変わらないくらい華奢だった悠馬の身体が、今ではすっかり逞しくなっていた。肩幅は広くなったし、胸板も厚くなっている。サッカー部での練習の成果なんだろう、腹筋もうっすらと割れているのが分かる。ずいぶん筋肉ついてるよな……なんて、つい見とれてしまった。
「どうした?」
悠馬の声にハッとして、オレは慌てて視線を逸らした。顔が熱くなっているのが自分でも分かる。
「濡れてないか? 服は脱がなくていいのか?」
「だ、大丈夫!」
慌てて答えるオレを見て、悠馬は何かを察したような表情を浮かべた。
「緊張してるのか?」
その問いかけに、オレは観念した。隠しても意味がない。
「……緊張してる」
素直に答えると、悠馬は少し驚いたような顔をした。
「おかしいよな。今まで、お互いの着替えとか学校でも家でもそれなりに見てきたのに、告白したら途端に緊張するようになるなんて」
自嘲気味に笑いながらそう言うと、悠馬は真剣な表情でオレを見つめた。
「俺の身体を見て、意識してるのか?」
答えづらいことを聞くなよ……と思いながらも、オレは小さく頷いた。
すると悠馬は、ゆっくりとオレに近づいてきた。突然のことに、オレの心臓はますます激しく鼓動し始める。なんで近づいてくるんだ? なんか言いたいことでもあるのか?
「お前は今まで、誰かとこういう……」
悠馬は言いかけて、少し言葉を選ぶように間を空けた。
「肌を触れ合わせたり、キスしたりした経験はあるのか?」
その質問に、オレは驚いた。そんなことを聞かれるなんて思ってもみなかった。
「な、ないよ……」
「そうか」
悠馬はそれだけ言って、それ以上は何も聞かなかった。でも、その声音にかすかに安堵のようなものを感じて、オレの胸がむず痒くなった。もしかして……嫉妬してたのか?
「悠馬」
オレは思い切って口を開いた。
「友情と恋愛の境目って、何だと思う? やっぱり恋愛感情があると、身体的な触れ合いが欲しくなるのかな」
「身体的な触れ合いか……」
悠馬はそう呟きながら、オレの顔に手を伸ばした。突然のことに驚いて、オレは身体を硬くする。
「確かに、お前に告白されてから……お前に触れたいと思うことが増えた気がする」
その赤裸々な告白に、オレは言葉を失った。
悠馬は手のひらでオレの頬を包むようにして、じっと見つめてくる。
「お前は可愛い顔をしてるよな」
「可愛いって……」
ムッとして文句を言おうとしたけれど、悠馬に褒められて悪い気はしなかった。ただ、母親譲りの整った顔立ちは、正直少しコンプレックスでもある。もっと男らしい顔に生まれたかった。
「お前は昔と比べて、ずいぶんカッコよくなったよな。サッカー部のレギュラーになってからは、ますます女子にモテモテだ」
今度はオレの方から言い返した。
「嫉妬したか?」
悠馬の問いかけに、オレは素直に答えた。
「ああ、嫉妬したよ。だってオレじゃ、どうあがいても女の子になれないから。お前の恋愛対象にはなれないって、ずっと自分に言い聞かせてた」
その言葉を聞いて、悠馬はかすかに笑みを浮かべた。
「でも、今は違う」
そう言って、悠馬はオレをじっと見つめる。その瞬間は、今までの長い友達生活の中にはなかった時間だった。オレは緊張するのを止められない。
「キスしていいか?」
無言で頷く。
唇が重なり合う。何度目かのキスだけど、やっぱり心臓が破裂しそうになる。
今度のキスは前回より少し長くて、悠馬の唇がオレの唇をそっと動かそうとするのが分かった。でも、まだお互いぎこちなくて、鼻がぶつかりそうになって慌てて顔を傾けたり、唇の位置がうまく合わなかったりして、小さく笑いそうになってしまう。
それでも悠馬は、どうやらキスが気に入ったらしい。唇が離れた後も、まだオレの顔に手を添えたまま、もう一度キスをしたそうな顔でオレを見つめている。
「……もう一回やってもいいか」
少し恥ずかしそうに尋ねてくる悠馬に、オレは小さく頷いた。
今度は少し慣れたのか、さっきよりもうまくいった。でもまだ悠馬の息が浅くて、緊張しているのがよく分かる。それがなんだか可愛くて、オレの胸がきゅんとした。
ふわふわした気持ちに包まれながら、オレは考える。
このまま自分たちはどこに向かっていくんだろう。このまま引っ越すまで、この関係を維持できるんだろうか。それから先は、どうなるんだろう。
一抹の不安が胸をよぎったけれど、今はそれよりも悠馬の温もりの方が勝っていた。
「傘をさしてたけど、結構濡れたな」
悠馬が振り返りながらそう言った。確かに、制服の肩のあたりが少し湿っているのが分かる。
「玄関で待ってろ」
そう告げて、悠馬は奥の部屋へ向かった。しばらくして戻ってきた彼は、オレに向かってタオルを投げてよこす。
「ありがとう」
オレはそれを受け取って、慣れ親しんだ廊下を歩いて悠馬の部屋に向かった。
悠馬の部屋はオレの部屋より一回り広くて、ベッドの他に部屋の真ん中には小さなテーブルが置いてある。壁際にはサッカー部で使うスパイクやユニフォーム、トレーニング用のダンベルなんかが整然と並んでいて、いかにも高校男児らしい部屋だった。オレの部屋とは全然違う。オレの部屋は漫画や小説がごちゃごちゃと積まれているのに、悠馬の部屋はいつもきちんと片付いている。
テーブルの前に座って、濡れたカバンをタオルで拭き始める。制服の袖も少し湿っていたから、それも軽く拭いた。雨の匂いがかすかに鼻をくすぐる。
そんな時、後ろから衣擦れの音が聞こえた。振り返ると、悠馬が制服のシャツを脱いでハンガーにかけているところだった。
上半身裸の悠馬の姿を目にして、オレは慌てて視線を逸らした。心臓がやけにうるさく脈打ち始める。
でも……ちらりと横目で見てしまう。
昔は自分と変わらないくらい華奢だった悠馬の身体が、今ではすっかり逞しくなっていた。肩幅は広くなったし、胸板も厚くなっている。サッカー部での練習の成果なんだろう、腹筋もうっすらと割れているのが分かる。ずいぶん筋肉ついてるよな……なんて、つい見とれてしまった。
「どうした?」
悠馬の声にハッとして、オレは慌てて視線を逸らした。顔が熱くなっているのが自分でも分かる。
「濡れてないか? 服は脱がなくていいのか?」
「だ、大丈夫!」
慌てて答えるオレを見て、悠馬は何かを察したような表情を浮かべた。
「緊張してるのか?」
その問いかけに、オレは観念した。隠しても意味がない。
「……緊張してる」
素直に答えると、悠馬は少し驚いたような顔をした。
「おかしいよな。今まで、お互いの着替えとか学校でも家でもそれなりに見てきたのに、告白したら途端に緊張するようになるなんて」
自嘲気味に笑いながらそう言うと、悠馬は真剣な表情でオレを見つめた。
「俺の身体を見て、意識してるのか?」
答えづらいことを聞くなよ……と思いながらも、オレは小さく頷いた。
すると悠馬は、ゆっくりとオレに近づいてきた。突然のことに、オレの心臓はますます激しく鼓動し始める。なんで近づいてくるんだ? なんか言いたいことでもあるのか?
「お前は今まで、誰かとこういう……」
悠馬は言いかけて、少し言葉を選ぶように間を空けた。
「肌を触れ合わせたり、キスしたりした経験はあるのか?」
その質問に、オレは驚いた。そんなことを聞かれるなんて思ってもみなかった。
「な、ないよ……」
「そうか」
悠馬はそれだけ言って、それ以上は何も聞かなかった。でも、その声音にかすかに安堵のようなものを感じて、オレの胸がむず痒くなった。もしかして……嫉妬してたのか?
「悠馬」
オレは思い切って口を開いた。
「友情と恋愛の境目って、何だと思う? やっぱり恋愛感情があると、身体的な触れ合いが欲しくなるのかな」
「身体的な触れ合いか……」
悠馬はそう呟きながら、オレの顔に手を伸ばした。突然のことに驚いて、オレは身体を硬くする。
「確かに、お前に告白されてから……お前に触れたいと思うことが増えた気がする」
その赤裸々な告白に、オレは言葉を失った。
悠馬は手のひらでオレの頬を包むようにして、じっと見つめてくる。
「お前は可愛い顔をしてるよな」
「可愛いって……」
ムッとして文句を言おうとしたけれど、悠馬に褒められて悪い気はしなかった。ただ、母親譲りの整った顔立ちは、正直少しコンプレックスでもある。もっと男らしい顔に生まれたかった。
「お前は昔と比べて、ずいぶんカッコよくなったよな。サッカー部のレギュラーになってからは、ますます女子にモテモテだ」
今度はオレの方から言い返した。
「嫉妬したか?」
悠馬の問いかけに、オレは素直に答えた。
「ああ、嫉妬したよ。だってオレじゃ、どうあがいても女の子になれないから。お前の恋愛対象にはなれないって、ずっと自分に言い聞かせてた」
その言葉を聞いて、悠馬はかすかに笑みを浮かべた。
「でも、今は違う」
そう言って、悠馬はオレをじっと見つめる。その瞬間は、今までの長い友達生活の中にはなかった時間だった。オレは緊張するのを止められない。
「キスしていいか?」
無言で頷く。
唇が重なり合う。何度目かのキスだけど、やっぱり心臓が破裂しそうになる。
今度のキスは前回より少し長くて、悠馬の唇がオレの唇をそっと動かそうとするのが分かった。でも、まだお互いぎこちなくて、鼻がぶつかりそうになって慌てて顔を傾けたり、唇の位置がうまく合わなかったりして、小さく笑いそうになってしまう。
それでも悠馬は、どうやらキスが気に入ったらしい。唇が離れた後も、まだオレの顔に手を添えたまま、もう一度キスをしたそうな顔でオレを見つめている。
「……もう一回やってもいいか」
少し恥ずかしそうに尋ねてくる悠馬に、オレは小さく頷いた。
今度は少し慣れたのか、さっきよりもうまくいった。でもまだ悠馬の息が浅くて、緊張しているのがよく分かる。それがなんだか可愛くて、オレの胸がきゅんとした。
ふわふわした気持ちに包まれながら、オレは考える。
このまま自分たちはどこに向かっていくんだろう。このまま引っ越すまで、この関係を維持できるんだろうか。それから先は、どうなるんだろう。
一抹の不安が胸をよぎったけれど、今はそれよりも悠馬の温もりの方が勝っていた。
